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リハビリ近況ノート短編『魔法ママ』

 瀬戸内海に面した街、舞鷹市。その海辺の地域に俺の家はある。貧乏な俺の休日の趣味は散歩だ。季節は初夏、海岸沿いを歩くのはとても気持ちがいい。あまり人とすれ違わないのも田舎の散歩のいいところだ。

 最近、俺は散歩中に変なものをよく拾うようになった。基本ガラクタだけど、それが人工物っぽいものだったら全て交番に届けている。玩具の部品みたいなものは流石に拒否られるけど、宝石みたいな石とか、よく分からない文字が刻まれたカードみたいなものだとかは受け入れてくれる。
 あんまりよく見つけてしまうので、今ではそう言うのが落ちてていないかを楽しむようにすらなっていた。

「今日は見つからないな~」

 いつもの散歩ルートを歩きながら、俺は海も見ずに進行方向の路上ばかり見ている事に気がついた。海を見るために始めた散歩だった事を思い出した俺は、久しぶりに陽の光を反射する瀬戸内の景色を眺める。潮風が吹いてきてとても気持ちがいい。
 背伸びをしてると猫が視界に入ってきた。砂浜を気ままに歩いているようだ。

「お、猫」

 俺は猫に近付こうと浜辺に降りる。その時に視界を猫から外して砂浜に降りてから戻すと、もうそこに猫はいなかった。

「え?」

 この時の俺は、きっと鳩が豆鉄砲を食らった顔になっていた事だろう。少し目を離しただけで見失うだなんて、猫好き失格だ。頭を何度も左右に振って猫がいないかを確認する。けれど、さっきまでいたはずの黒猫は消しゴムで消したみたいに綺麗に消え去っていた。

「そうだ、足跡は?」

 猫は足音は消せるけれど、足跡は消せない。乾ききっていないコンクリに猫の足跡が残るように、やわらかい砂浜にだって足跡は残っているはず。そこで、俺は猫がいたはずの場所を丹念に探した。
 この執念が実ったのか足跡は見つかったものの、途中で消えている。

「何で?!」

 足跡が消えた先に何かが埋まっていたので引っ張り出してみると、それは――。

「魔法のステッキ?」

 そう、魔法少女の変身アイテムみたいなピンクに塗られたプラスチック製のステッキが埋まっていたのだ。これが今回の散歩の戦利品……て事でいいのか?
 今まで色々拾ってきたけど、この手のアイテムをゲットしたのは今回が初めてだった。それもあって、すぐに警察に届けていいのか判断がつかない。

「誰かが捨てたのかな?」

 俺はこのステッキを持って家に帰った。まずは正体を確認しようと思ったのだ。ネットで調べたものの、該当する製品は見当たらない。似たようなデザインのものはヒットするのだけど、そのどれとも微妙にデザインが違うのだ。

「やっぱ交番に届けるかな」

 ステッキ自体はどこも傷んでいなくて新品のようにも見える。俺がステッキを握って様々な角度から眺めていると、背後から母がやってきた。

「あんたどうしたのそれ」
「浜で拾ったんだよ」
「何だか懐かしいねえ。ちょっと貸して」

 ノスタルジーに浸っている母にステッキを渡すと、彼女はその場で振り始めた。

「マジカルリリカル、へんしーん☆彡」

 その呪文と共にステッキから光が溢れ出して、俺は思わず腕で目をガードする。光は一瞬で消えたので改めて母の様子を確認すると、そこにはピンクでヒラヒラの魔法少女衣装を着たピンクヘアの魔法少女がいた。

「えっ?」
「えっ?」

 この突然の非常事態に俺達はお見合い状態。目の前のコスプレ少女は少女の姿に戻った母なのだろう。面影があるし。髪の色は変身の影響かな。
 この出来事が現実なら、拾ってきたステッキは本物と言う事になる。まずはそれを確認する事にした。

「母さん、だよね?」
「和樹、これどう言う事?」
「うん、母さん今魔法少女になってる」
「嘘でしょおお!」

 俺の指摘に驚いて大声を上げた母はすぐに姿見の前まで走っていった。まぁこう言う場合、鏡を見て現実を知るのが大事だよな。俺もすぐに後を追うと、そこにはキラキラ笑顔で可愛くポーズを取る母親の姿があった。

「見て見て、この服似合ってる?」
「あ、うん」
「今の私、和樹より若くなってる」
「あ、うん」

 俺は今17歳だけど、目の前ではしゃぐ母は中学生くらいに見える。背も150センチないくらいだし、ロリバ……。
 俺が今の母の容姿について考えていたら、当人からの鋭い視線が突き刺さる。

「今ロリババアって思ったでしょ」
「え、いや……」
「その顔は思ってるね! いい? 今の私は14歳! 永遠の14歳よ!」

 母によると、魔法少女は14歳が決まりらしい。もっと幅はあると思ったものの、その気迫に押されて反論は出来なかった。

 しかしこれ、これからどうしたらいいんだろ。元の母に戻せるんだろうか。魔法少女が誕生したと言う事は戦うべき敵も出てくるんだろうか?
 俺は能天気に浮かれてはしゃぐ母を見て、このまま何も起こらないなんて事はないよなと頭を抱えるのだった。

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