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私のこと……なぜ書いているのか?【物語風自己紹介】

その日も、私はストレスを溜め込んでいた。


「購入されたこのPC、お持ちのモニタとつながりませんよ?」

私がそう伝えると、現場の情シス(情報システム)担当は、表情を曇らせる。

「えー、お宅んとこの営業が大丈夫だからって言ったから買ったんだよー、困るよー」


PC調整が完了し、ユーザー様の席へ設置しようとした際、それとモニタがつながらないことが判明した。現場情シス担当の話から、原因は明らか。
ウチの営業がチョンボ。
営業が『ITオンチ』なせいで、この手のトラブルが月に2~3回起こっている。
IT機器をメインで取り扱っているのに……


いい加減、営業は注文を取る前に、ユーザー様の環境確認くらいしてほしい。
割りを食うのはいつも現場の私だ。


「そう言われましても、HDMIケーブルはVGAに刺さりませんので……」
「モニタが古いのはわかっているが、なんとかしてくれ。使えないと1日ン十万の損害が出るんだ」

昼のチャイムが鳴る。

仕方ない。昼が開けたら近くの山田電気に変換アダプタを買いに行こう。
建て替えという形で後から購買に言えば返金してくれるはずだ。
返金されなかったら化けて出てやろう。


「わかりました。なんとかしますから」

ヘルプデスクとは、困った人がいたら助けてしまう。そういう人種。
こうして『なんとか』する度に、ストレスがマッハで溜まっていく。

それが私。風波野ナオである。

    ◇


ラノベや小説サイトを見ること。それが私のストレス解消法であった。
昼ご飯の後、とあるラノベを丁度読み終わり、読了感を味わいながら窓の外を見ていた。
天気は曇り。グレーの町並みが味気なかった。


私はふと思った。

「こういう小説をいつか書いてみたいなァ」





──なら、書いてみれば?




私の中の誰かが言った。
誰?


誰かが更に言った。

──君は、書くことが出来る



そんなことできっこない。なぜなら、
書き方を知らないから。



──そういうの、いくらでもあるよ

いつの間にかモニタにはAmazonが表示されていた。
そして大量の『小説の書き方』本が……
普通の小説やWEB小説からTLに果ては官能小説まで、多種多様。



──それから、これも

今度は文章を作る技術みたいな本が表示された。
こちらも多種多様だった。



そりゃあ、書籍はあるだろうさ。
PCのマニュアルを読んで、書いてある通りに電源ボタンをON。そうすればWindowsがスタートする……みたいに、読んで実施すれば書けるかもしれない。


……でも、私には書くものがないんだ。



──あったら、書くのかい?


……考えてみます。


そいつは、頭の中で指をパチンと鳴らした。



途端に、大量のイメージ……物語が……降ってきた。

さえない男子と魔王を倒して帰ってきた少女が異世界へ迷い込んだ人を救助する話
つぶれかけの文芸部を二人だけの部員で立て直す話
欲望が煮詰まった妖怪が人を襲い、その妖怪を食べる妖怪と冒険する話
追放されたヘルプデスクが無双する話

それから…… それから……



「ストップストップ、ちょっとまって」

私は思わず立ち上がり、叫んでしまった。
周りの人がこっちを見ている。
恥ずかしい。

「すいません、ちょっと怖い夢を見まして」

謝り、席に座る。
珍獣を見たような顔を向けられたが、みんなスマホやPCの画面に戻った。

こういうのはやめてほしい。
イメージで頭がパンクしてしまう所だった。



──わかった? 書く題材なんていくらでもあるんだ。なくても降らせてやろう


私が、書ける?
本当に?


──書けるさ。なんなら昔の嫌な思い出をやり直したり、失恋を両思いにも出来る


……やり直し系を自分自身に? そんなことも出来るのか!
私は、つい、やる気になってしまった。
ここでやめとけばよかったのに。


午後のチャイムが鳴る。
窓の外を見ると、雲がいつのまにか消えてなくなっていた。
町並みが、輝いて見えた。


いいよ、やってやろうじゃない。


    ◇

小説の書き方本を一式読んで、主題を考えた。

『冴えない人生を送る主人公が、ふと立ち寄った怪しい店に立ち寄る。そこで手に入れた自分自身のことが書かれた小説を修正すると、世界が改変されてハッピーエンド』

こんな感じか?

キャラや世界を考え、次にプロットを、起承転結に沿って構成する。
それをモトに、執筆する。


不思議な感覚だった。
今までは読む事しかなかった物語が、自分の手から生み出される。
まるで世界を創造しているみたいだった。


約400文字、簡単な物語が完成した。


……でもこれ、どうすればいいんだろう。



──よく見ている小説サイト、そこに投稿してみれば?



やってみた。
ぜんぜん読まれなかった。
あたりまえだが、悔しかった。


──書けるとは言った。読まれるかどうかは、別の話だ


私の中の誰かは、無責任にも程があった。
それでも、書きたいものは次々湧いて出てきた。



    ◇



それからも私は、掌編小説を書いては投稿していた。
ぜんぜん読まれないのは相変わらず。
それでも、私はまた、白いテキストエディタに向き合っている。

何故なんだろう。



頭の中の誰かが話しかけてきた。


──小説家ってどんな人だと思う?

人?
うーん、書き方の本であったな。小説家の目で見て、小説家の頭で考えて、小説家の手で作品を書く人。そうじゃない?



──正解は「書かずにはいられない人」さ

──誰にも読まれなくても、理解されなくても、迫害されても、書かずにはいられない

──そんな人だよ




──それは君だよ




そんな……
私は、私の心にいるそいつが、一体何者なのか理解出来た……気がした。



──気がついたかい。私は、小説家という呪いなんだ

──物を書けるという祝福と、書かずにはいられない呪い

──それは表裏一体で、消えることはない



──君は私のせいで、これから、どんなに孤独であっても、書かずにはいられない

──ただそれは、君のせいでもあるんだ

──本心で「書きたい」と願ったから、私が生まれた



そうだったのか。

私は本心で願ったことを後悔しながら、感謝していた。
誰にも届かない言葉で、テキストファイルを満たす。
確かに祝福であり、呪いだった。


──先は長い。気楽にいこう、相棒


    ◇


そして、私はどうなったか?


「何だよこの『あの夢を見たのは、これで9回目だった』って。ムズっ」

「『天下無双 ダンス 布団』 あ、これ結構簡単にいけるかも」


割と楽しんで、ストレスを解消していた。


「やっぱりPV増えないなぁ。★や♥をもらうにはどうすればいいんだろう」


<了>



———————————————————

で、よろしければ私の作品をお読みいただき、★や♥をいただければ幸いです。

https://kakuyomu.jp/users/nao-kazahano

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