犬はどこで生まれるかで、生涯が決まってしまう。
生まれた場所がどこかの草むらだったら、雨ざらしで、食べるにも困る野犬生活を送る。
冷暖房の利いた部屋で、可愛い服を着てオスワリをすれば、たっぷりのおやつとご飯がもらえる犬。
そんな犬もいる。
毎日毎日、飼い主に甘えて、
尻尾がちぎれるかと思うほど、大げさに振ってみせる犬たち。
私の家にもそんな犬がいる。
とっても甘えん坊で文句ばかり言うミックス犬だ。
ミックス犬の彼は、
朝から「ねぇ、ママ朝ごはんはまだ?5分も遅れてるよ」
「ねぇ、ママ、お散歩はまだ行かないの?隣の子は格好いいレインコートを着て傘をさしてもらってるよ」
「ねぇ、ママ知ってる? 隣の子はぼっくんより高いドッグランに連れて行ってもらってるよ」
こんなふうに毎日朝から
あざとい表情で文句を並べたりする。
朝。
ぼっくんは今朝も、少し迷惑なくらい早起きだ。
カーテンの隙間から差し込む光に目を細めながら、
布団の中で丸まっていた体をぐいっと伸ばす。
「ママおはよう。朝だよ。お腹すいたよ」
尻尾をぶんぶんと振りながら、布団を前足でちょんちょんする。
「ぼっくん、お願いもう少し寝かせて」
ぼっくんは容赦なく、寝ぼけた私の顔を覗き込み、ペロペロと舐める。
「……まだ六時半よ、ぼっくん」
そう言って笑うと、ぼっくんは得意げに胸を張る。
まるで「早く起きることはいいことなんだよ、ママ」と言わんばかりに。
器にカリカリを流し入れる。
ビーフの香りがほのかにする。
ぼっくんは、耳をピンと立て、ぴょんぴょんと跳ねる。
食べ終わると、口の端の毛に絡まった一粒を気にして、
何度もペロペロと舌を回す。
「ごちそうさまのキスは?」
私がそう言うと、ぼっくんは、面倒くさそうに顔を上げ、
少しだけため息をついてから、鼻先をそっとくっつける。
まるで「はいはい、これでいい?」と言いたげに。
昼下がり。
陽だまりの中で、ぼっくんは、窓際のクッションの上にゴロンと寝転がる。
外では風が木の葉をサワサワ揺らし、鳥のさえずりが聞こえる。
私はコーヒーを飲む。
スマホを手に文字を打つ爪の音と、
ぼっくんの寝息が静かに重なる。
ときどき、ぼっくんが寝返りを打つ。
「んっ」と小さな声を漏らし、
私の方をちらりと薄目で見て、また目を閉じる。
その姿があまりにも穏やかで、私はふと手を止める。
ぼっくんがいてくれると、
部屋の空気がとても優しくなる。
時計の針さえ、のんびり進んでいるように感じる。
夕方の散歩。
ぼっくんは、お気に入りのハーネスをつけてもらうと、大はしゃぎをしてクルクル回る。
風のにおいや道端の雑草のにおいを嗅ぎながら空を見上げる。
ぼっくんは、歩きながら何度も私を見上げた。
そのたびに尻尾を振って、満面の笑顔で
「ねぇ、ママ。今日もいい日だね」と言う。
夜。
ぼっくんは、丸くなって、私の枕に頭をちょこんと乗せて眠る。
鼻先を前足の中に埋め、時々、小さく寝言を言う。
私は、そっと毛並みに手を置く。
命の鼓動を感じる。
ぼっくんは今日という一日を一生懸命生きている。
ぼっくんの寝息が小さく聞こえる。
「ぼっくん、おやすみ」
月が静かに光を落とす。
明日の朝も、ぼっくんは得意げに私を起こすだろう。
世界中の犬に、そんな当たり前の朝が来ますように。