ハンタ―×ハンターのゲンスルーって作中でも屈指の簡潔かつ深く彫られたキャラクターなんですよ。ゲンスルー。ボマーですね。ボマーには気をつけてください。(肩ぽん
ハンター×ハンターは日本語物語の教科書なので読んでるものとして語りますね。
ゲンスルーの思想はごく明確にはっきり描かれています。登場が短期間でその間に書き切っている。切れ味のあるキャラです。
ゲンスルーのキーワードはイカれていること。イカれを信条に、武器にしているんです。
この視点ではハメ組を代表したプーハット(ゴン達と一緒にG・Iに来たアゴ出てるニヒルなスーツの男)との交渉のシーンが超重要になります。
プーハットはすごく現実的な交渉を持ちかけます。
「俺たちは混乱して意思統合ができない!でも俺が間に入ればまとまる。もし意思統合できずに全員死んだら?お互いにとって損だ!だからこの条件を飲んでほしい!」
ゲンスルーは評価します。冷静な交渉だと。続けます。
「いかに冷静でイカレてるか相手に理解させるのが交渉のコツだ」
でプーハットの首だけを混乱しているハメ組の元に送り返します。屈服以外は死。ゲンスルーはイカれを見せつけることで常に相手を威圧して優位であり続けます。
その視点を持ってゴンとのバトルを見ましょう。
ゲンスルーは実力も上、負けるはずがない。だけど目的はゴンの持つカード。自ら指定ポケットカードを譲る選択をさせないといけない。殺しても負け、屈服させないといけない。
「肉体ではなく、心を摘む闘い」
ゲンスルー視点で戦闘優位、その上で先ほど触れたシーンであるように『どちらがより冷静でイカれているか?』常々信条にしてきた、戦闘だけでなくこれも得意で競うつもりでいます。
この視点できちんとこのバトルを読むとめっちゃおもろいんですよ。だって「冷静でイカれているか?」でゴンに挑んでるんですよ?勝てるわけないじゃないですか。ゴンの勝ち確です。
戦いのテーマがイカれていることならゴンは誰にでも勝てます。VSイルミ、VSゴトーさん、VSノブナガ、VSヒソカにだってその一点でなんとかなってるんですから。もちろん後のVSピトーも。実際この戦いでのゴンは喉を潰されることも想定内、片腕失っても特攻する。やべえ奴です。しかもちゃんと準備した策をすべて実行する。冷静。
一方でゲンスルーは順序立てて説明するんです。
「お前の準備はすべてお見通しだ。無意味だ」
とめっちゃ理詰め。1つ1つ相手を見て判断します。相手を観察…?イカれてる…?
あろうことかこう思考してます。
『勝つためなら意地を捨て、理をとる。』
理…?理って…。ゲンスルー!心を摘むんだろ?イカれてるかが大事なんだろ?そんなの悪手じゃわ蟻ンコですね。
もしゲンスルーがこの戦いに勝ちたいなら『ゴンを殺してしまっても構わない。ライバル潰したら十分。後で残りのカードはゆっくり集めればいい』と思うべきでした。ゲンスルーはいかにイカれてるかを勝負の焦点にしてすっごい理知的。悪手です。
ゲンスルーって「冷静でイカれていよう」と常に頑張っているんですよね。だって「危ない橋を渡る時は三人一緒だ」とリスキーダイスを無意味に振ります。サブとバラに対してはすっげえ良い奴なんです。根は良い奴。だけど三人で生き抜くためには「冷静でイカれている」ように振る舞うしかなかったんです。
誰にでも穏やかで優しくできるほど強くもないし、何かを失うことを恐れないほどイカれてもないんです。つまり「イカれ」は彼の努力です。自分のため、みんなのために頑張ってきたんです。
そんな努力の男ゲンスルーはゴンの腕を爆破したところで勝ったなと思ってしまいます。片腕失くした痛みと不利で降参するだろう。うまく交渉して終わらせよう。でも勝ち目のなくなったゴンが言うんです。
「ここからが本番だ、いくぞゲンスルー!!」
無い利き手でファイティングポーズをとるゴン。イカれてる~。その後、戦いが終わってもまだ決着はしていません。心を摘む戦いなので。
拘束されたゲンスルー達三人。立場は逆転しました。つまり今度はゲンスルーの心をゴン達が摘まないといけない。だってブックって言わなきゃ負けじゃないです。しかしそこでゲンスルーは何よりもサブとバラのダメージを気にしちゃいます。やっぱり良い奴。
でゲンスルー、プーハットみたいに冷静な交渉をしてしまいます。「大天使の息吹でバラのケガを治してくれ。そのためのスペルカードは持っている。俺たちのを使ってくれ」
でもこれ絶妙です。ゲンスルーのスペルカードを使うにはゲンスルーの拘束を解かないといけない。カードのやりとりや複製の操作をする流れが生まれるかもしれない。ゲンスルーは下からの交渉で降伏の意志を示しながらまだ逆転のチャンスを伺っていたのかと私は読んでます。
ビスケは答えます。
「はじめからそのつもりよ。事前に6人分の大天使の息吹をこっちで用意しているわよ」
これから命をかけて戦うのに、ゴン達ははじめからゲンスルー達を含めた全員の治療の準備までしていました。貴重な大天使の息吹と準備が大変なスペルカード。わざわざ修行の時間を割いて準備したんです。実力的に上回る相手のその後の安全まで考えていたわけで、そのために逆転の芽もないことを悟ります。
「ああ、俺よりイカれてる…」
ゲンスルーはきっとそう感じたのでしょう。自分がずっと立ち続けた土俵で負けて心をすっかり摘まれてしまいました。そして唱えます。
「ブック…!!」
あちぃ~。
グリードアイランド編ってゲームの世界でカードを集める、修行でどんどん強くなる、ヒソカと共闘してレイザーとのドッチボール。わくわくが多くてゲンスルーって見落とされガチなんですけど、あのキャラ背景を想像するとクッソ熱いんですよね。1人だけヨークシンしてる。彼らミニ幻影旅団。
真にハンター×ハンターを解する者を判別するリトマス紙としてゲンスルーの理解はすごく重要です。なのでハンター×ハンター通を自称する方はゲンスルーにはきちんと注目してみてください。そうすることで私のようにクソウザ通ぶれます。
また書かないのに成立するって大事だなと思います。読者に気付かれなくてもいいんです。きちんと理解されずとも伝わるようにすることって大事です。物語のマントルみたいなものなのだと思います。