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ガムでも噛むかのように飛んできた銃弾を噛む

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ウソツキミハエル
下の絵は魔導列車の食堂車内
ルルメール編プレビュー↓


 ミハエルが放つ蒼い光の球体。その絶対的な破壊力を前に、マフィアの男の理性が焼き切れる寸前、不意にその光が霧散した。男が何事かと目を見開くのと、人質であるはずのサリサが心底退屈そうな顔でため息をついたのは、ほぼ同時だった。
「はぁ……。もういいわ。飽きた」
 その一言は、誰に向けたものでもなかった。ただ、この茶番に付き合うのが面倒になった、という純粋な感情の発露。
 サリサは、自分のこめかみに押し付けられた銃を、まるで邪魔なハエでも払うかのように、しかし奪いはせずに男の手首を掴んだ。骨が軋むような音はしない。だが、男の腕は、万力で締め上げられたかのようにぴくりとも動かせなくなった。
「なっ……!?」
 男が驚愕の声を上げるより早く、サリサは信じられない力で、銃を握らせたままの男の手を、自身の口元へと誘導する。冷たい銃口が、彼女の柔らかな唇に触れた。そして、躊躇なく、男の指を無理やり引き金にかけさせた。
 パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!
 立て続けに六発。乾いた発砲音が路地に響き渡る。
「えっ、えっ!?」
 マフィアの男は完全に混乱していた。自分の意思ではない。目の前の女が、自ら死を選んだ? いや、違う。この女は、自分に自分を撃たせたのだ。わけがわからない。恐怖と混乱で、男の思考はショート寸前だった。
 だが、サリサの身体から血が噴き出すことはない。それどころか、彼女の口の中から、甲高い金属音が響き渡ってきた。
 ギュインギィインギュインギィインギュインギィインギュインギィインギュインギィイン!
 それは、発射された六発の銃弾が、彼女の口腔というあまりにも狭い空間で、凄まじい速度で跳弾を繰り返している音だった。歯を砕くことも、舌を貫くことも、喉を裂くこともなく、ただひたすらに、硬質な壁に阻まれ続ける金属片の悲鳴。
(……は? どういうことだ……? 銃弾を、口の中で……受け止めている……? 物理的に、ありえない……。彼女の肉体は、一体……何で出来ているんだ……?)
 クロードは軍人としての知識と経験の全てを総動員しても、目の前の現象を説明する言葉を見つけられなかった。
「ひ……ひぃ……! お、お化け……!」
 サミュエルは腰を抜かし、その場でへたり込んだ。彼の貧弱な常識では、目の前の光景は悪夢以外の何物でもなかった。
 やがて、その金属音が止む。
 サリサは、まるでガムでも噛むかのように、もぐもぐと口を動かした。口内で暴れ回っていた六発の弾丸を、いともたやすく一つの塊へと練り上げていく。
(ああ……。サリサもまた、人ならざる御方……。ミハエル様と共に在られるにふさわしい、神威の顕現……!)
 空夢風音は、その神々しくも冒涜的な光景に、畏敬の念で打ち震えていた。
(面白い……。人体組織の強度限界を遥かに超えている。霊気の硬質化か、あるいはそれとは全く異なる理屈か。ホワイトライガーの因子が、ここまでの物理法則改変をもたらすとは……。実に興味深いサンプルだわ)
 東雲波澄は、扇子で口元を隠し、その瞳だけを爛々と輝かせてサリサの口元を観察している。彼女にとってこれは、最高の研究対象だった。
 そして。
 サリサは、ぷくっと頬を膨らませると、狙いを定めるように男の右腕に視線を向けた。
 プッッッッッッッッ!
 圧縮された空気が破裂するような、鋭い音。
 彼女の唇から吐き出された歪な金属塊は、一条の光となって飛翔した。マフィアの男が反応するよりも早く、その弾丸は秒速十万キロメートルという、もはや物理法則を愚弄する速度で、彼の右腕を寸分の狂いもなく貫いていた。
 ドシャッ、と肉が抉れる鈍い音が響き、男は悲鳴すら上げられずにその場に崩れ落ちた。もちろん、命に別状はない。腕もちぎれてはいない。
「そもそも、サリサわたしよりずっと強いし、撃っても全然死なないんだよね~~……黒竜光波程度じゃ」
 ミハエルが、まるで他人事のように、肩をすくめながら言った。先程までの冷徹な講義はどこへやら、今はただ、面倒事が片付いてほっとしたような、気の抜けた表情をしている。
「アホぬかせ。わたしとミハエルは同じくらいでしょ~!?」
 そんな彼の言葉に、サリサがぷりぷりと怒って反論した。
 ミハエルの評価はいつもそうだ。自分を過小評価し、相手を過大評価する。つまり、彼の口から出る
『彼(彼女)はわたしより強いぞ』
 という言葉は、全くもって信用にならない。皆さんも、この男のこの種の言葉にはくれぐれも注意していただきたい!
「……はぁ。頭、病めそう。一体何なの、この夫婦漫才……」
 水鏡冬華が、こめかみを押さえて心底うんざりしたように呟いた。彼女だけが、この超常的な戦闘を、くだらない痴話喧嘩の延長線上にあるものとして冷ややかに見つめていた。
 その、あまりにも馬鹿馬鹿しいやり取りが、全ての決着を告げていた。
 次の瞬間、それまで抑圧されていた感情が、堰を切ったようにミハエルの口からほとばしった。
「大体鉄道に乗りに来たのにいつまでマフィアとじゃれ合わなければいけないのさーーーー!!」

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