前回、「わたしには毎年芸術の秋がくる」と書きましたが、この作品は、そのはじめに書いたものです。
専門学校の社会学の試験で出題されたケイト・ショパンの「一時間の物語」を読んで、「短編もいいな」と触発されました。
考えてみれば、わたしの好きなオスカー・ワイルドやJ.R.R.トールキン、宮沢健二も短編を多く残しました。どれも魅力的で素敵な作品です。
長編を書くには、天才でもなければ、入念な下準備と構成力、そして根気が要るので大変ですが、短編ならば、頭に浮かんだイメージをギュッと凝縮して、一気に書き上げることができます。
「特別な夜」は、わたしの思い出をもとに作り上げた物語なので、いわゆる私小説です。
特に何も起こらないお話ですが、人生を振り返ると、「なんでもないけど、よく覚えていること」って、いくつかあると思います。
読者の皆様にも、そんな、何か小さな思い出を、引き出しから出して手にとって、宝物のように色々な角度から眺めてほしいなと思います。