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【裏設定公開】一ノ篇の舞台裏

一ノ篇「遅咲きの刃」を最後までお読みいただきありがとうございました。

今回は、本編では語りきれなかった設定や裏話を公開します。二ノ篇を待つ間のお供にどうぞ。

■葬月流 技の全体図

本編中に登場した技を改めて整理します。

三つの構え

「沈月(ちんげつ)」は担ぎ構えです。刀を右肩の後方に深く担ぎ、右手の小指と薬指だけで柄尻を挟みます。左手は鍔元に添えるだけ。一見して隙だらけに見えますが、肩甲骨の回旋で斬撃が生まれるため、腕の動きから太刀筋を予測できません。蓮の父・弦一郎が最も得意とした構えでした。

「朧月(おぼろづき)」は居合です。鞘の中で柄を逆手に近い角度で握り、親指を柄の腹に沿わせ、人差し指と中指を鍔に掛けます。抜刀と同時に手の中で柄が半回転し、抜き切った瞬間には正眼の握りに戻っています。目撃者には「鞘から刃が飛び出した」ようにしか見えません。一撃ごとに鞘に戻すのが朧月の作法です。

「残月(ざんげつ)」は正面構えです。正眼に似ていますが、切先を相手ではなく地面に向け、柄を臍の前で指先だけで支えます。まるで刀を「置いている」ような脱力した構え。ここから繰り出すのは突きではなく、剣先だけで急所を薄く切り裂く「掃き斬り」です。刃が肉に深く入らないため刃こぼれせず、一振りで複数の急所を裂けます。

連動技「月蝕(げっしょく)」 は三構えを一呼吸の中で移行する奥義です。沈月の担ぎから朧月の居合速度で抜き、残月の精密さで急所を裂く。人の目には一つの動作にしか見えません。蓮が京で桐野左馬助を斬った際に使いました。

■冥途の七送り

葬月流の真髄は「斬った相手がすぐに死なない」技術にあります。急所の深さと角度を精密に制御し、致死までの時間を操作します。

「七夜送り」は七日後に死亡。内臓の表層をごく浅く裂き、数日かけて炎症が広がり臓腑が腐ります。蓮が三淵大納言に使った技です。

「六道返し」は六日後。脾臓周辺の血管を傷つけ、緩やかな内出血を起こします。

「五衰落し」は五日後。天人五衰の名の通り、五感が順に失われるよう神経の要所を裂きます。

「四華断ち」は四日後。頸の奥の脈を薄く裂き、脳への血が徐々に減ります。

「三途渡し」は三日後。腎の腑を傷つけ、毒が身体に回ります。

「二世送り」は二日後。心の腑に近い大脈を掠め、血が胸に溜まります。蓮が桐野左馬助に使った技です。

「一息絶ち」は一刻(約二時間)後。喉奥の急所を裂き、一刻ほど普通に動けますが、突然血を吐いて絶命します。

■時代背景の補足

物語の舞台は慶長十九年(1614年)から元和初期です。大坂冬の陣・夏の陣の前後にあたり、豊臣家滅亡に向けて政治的緊張が極限に達していた時代です。

三淵大納言経房は架空の人物ですが、当時の朝廷と幕府の間を取り持つ「武家伝奏」的な立場をモデルにしています。外様大名への圧力は実際に苛烈で、些細な落ち度で改易(取り潰し)される藩が続出しました。白峰藩のような小藩にとって、京の公家の不興を買うことは本当に命取りだったのです。

弦一郎が拝謁の場で動かなかったのは、武士としての美学ではなく、極めて合理的な判断でした。大納言に反撃すれば藩が滅ぶ。藩に仕える数千の人間の生活が消える。弦一郎は自分の命と数千人の命を天秤にかけ、黙って刺されることを選んだのです。

■登場人物の「その後」が気になる方へ

了然は光雲寺で元気に石段を掃いています。蓮が去った後も変わらない日常です。

柘植源三郎は引き続き諸国を回り、蓮に情報を届ける役目を自らに課しています。

白峰藩は藩主・戸沢秀行のもと、三淵大納言に完全に屈服した状態で存続しています。弦一郎の死について疑問を呈する者は藩内にいません。

そして蓮は——。

二ノ篇について

二ノ篇は一週間後に連載開始します。

蓮は十七歳になり、光雲寺を出て「人の中で生きる」道を歩み始めます。舞台は中仙道の宿場町。新しい登場人物たちとの出会い。そして——蓮は初めて「刀を持たない生き方」を選ぼうとします。

だが、世界はそれを許してくれるのか。

詳しくは来週の予告記事で。

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