第1話:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/2912051597468240238
第2話:https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/2912051598026466545
10日後。
エリーティアとアタマナ主従はグリンジーネを出立し、次の目的地であるフェルナータへと到達していた。
元々、来る予定はなかった。
ただ、エリーティアの祖母であるヒュネペアが「ここに行けば何かあるかもしれない」と言っていたので、少し遠回りをしてやってきた。
オルセナ摂政だったツィア・フェレナーデの故郷フェルナータ。
もちろん、2人ともこの場所を訪れるのは初めてである。
「それでは早速中に行きましょう」
アタマナが先導してフェルナータの城門に近づくが、当然のように衛兵から「何者だ?」と呼び止められる。
「フッフッフ……何者と来ましたか」
アタマナが不敵に笑みを浮かべた。
「こちらにおわすお方をどなたと心得る!? 前ビアニー国王ツィア・フェレナーデの……」
「ビアニー国王としての名前はソアリス・フェルナータです」
エリーティアが小声でつっこみを入れる。
「……ビアニー国王ソアリス・フェルナータの娘にして、前女王ヒュネペア……」
「お婆様は前王妃です」
ほぼ女王なのは間違いありませんが、エリーティアはアタマナに対して入れたつっこみに、更に自己つっこみを入れている。
「前王妃ヒュネペア様とビアニー総督アルエーク・カイネッヒェより信任いただいた、ビアニー女王エリーティア・ティリアーネ・カナリス様におわしますぞ! 頭がたか~い!」
「……ビアニーは身分名を使わないので、エリーティア・セシリームか、エリーティア・セシリーム・カナリスですね」
「……紹介って難しいですね……」
と、2人で寸劇のようなことをやっていたわけだが、とにもかくにもエリーティアの素性は伝わったようだ。
「お待ちください!」
衛兵の1人がすぐに城内へと飛んで行った。
更に10分ほどすると、1人の中年の男が飛んできた。身なりからしてここの責任者であるようだ。
転がるようにエリーティアの前でひれ伏す。
「ロナルト・ファンデルンク参上いたしました! 父王陛下より、このフェルナータの管理を任されていた者にございます!」
「は、初めまして……」
エリーティアは怒涛の勢いで平伏したロナルトに対して気圧されたように挨拶をしている。
次いで渋い表情をアタマナに向けた。大仰にビアニー女王なんて言うから、こんなことになるんだという、そんな感情が現れている。
結果として政庁の建物に通されてからも、まずはエリーティアが弁明する。
「詳細はお婆様に聞いてほしいですが、私はイサリアへの留学をするという建前で来ておりますので、行かないわけにもいきません。今すぐにビアニーをどうこうするとか、フェルナータに何かをしてほしいというわけではないのです」
「そうですか……」
「もちろん、そう遠くない未来には、私がやるべきことをやるつもりではおりますが」
明らかに落胆したのを見て取ったのだろう。弁解を更に追加する。
「私が今回ここに来ましたのは、これまたお婆様から言われたのですが、お父様がここでお母様との時間を過ごしていたのではないか、ということで、そういうことをご存じでしたら教えてほしいと思った次第なのです」
「陛下の母君……」
ロナルトの表情が渋くなる。
オルセナ女王に対する感情なのだろう。
ただ、さすがにツィアが副官として置いていて、フェルナータを任せていただけのことはある。渋い表情は一瞬だけで真剣に考える。
「……そういえば、結婚式を挙げた後、二カ月ほど北に置いた別荘で過ごしておりましたな」
「二カ月!?」
エリーティアとアタマナ、揃って目を丸くするという同じ反応を示した。
「……摂政殿下が二カ月も休みを取られていたことはあったのですか?」
アタマナの小声の問いかけに対して、エリーティアも小声で応じる。
「私が記憶している15年くらいではないですね」
「……16歳なのに15年記憶があるあたりも凄いですね……」
「そうですか? 一部だけなら16年半前のことも覚えていますが」
「もういいです」
ひそひそ話が終わった。
特別有意義な話をしたわけではない。ただの認識のすり合わせだ。
その結果はお互い共通している。
仕事と雑務ばかりしていたツィア・フェレナーデが妻と二カ月のんびりしていたらしい。
それだけでも十分に驚きである。
「今もその別荘は使われているのですか?」
「使われてはいませんが、ソアリス陛下の使われていた場所なので管理はしております。案内いたしましょう」
ロナルトが申し出る。エリーティアは。
「私は場所だけでも……何でもないです」
当初は場所だけ聞こうとしたが、「私を置いていくのですか」と恨めし気な視線を送るアタマナを見て、仕方ないという様子で同行に応じた。