この回は秘密の部屋に隠されていた本を入手した主人公が、それを読み解いていく回です。この本では普通にラテン語が使用されていたりしますが、今回は西洋魔術と言語の関係について少しお話したいと思います。
注意:以下の内容は筆者の感想に過ぎず、実際の魔術結社の見解や魔術研究者の方のご意見とは全く異なる可能性があります。ご注意ください。
西洋魔術は凡そで言うと、十九世紀から二十世紀にかけてヨーロッパで広まりました。これは新しく立ち現れたというより、古代のオカルティズムを近代の啓蒙思想や哲学で再解釈したものと考えていいでしょう。そして近代の魔術師たちが大きく影響を受けたのが、エジプトの神秘思想・ユダヤのカバラ思想・そしてグノーシス主義です。よって魔術で使用される言語にも、これらのルーツからの影響が反映されています。
基本的に魔術の詠唱は、ヘブライ語で唱えるのが最上とされています。近代魔術の隆盛はイギリスで起こったのですが、英国魔術師たちも詠唱には英語を使わずヘブライ語をもっぱら使用していたのです。これはルーツであるユダヤ文化で現在も使用されている言語だからでしょうが、多分彼等はヘブライ語に比較して英語が「俗っぽい」と考えていたかも知れません。我々だって作中人物に魔法を使わせる時、わざわざ「我は」とか「雷(いかづち)よ」とか古い言い回しを好みますよね。多分実在の魔術師たちも、普段遣いの言葉では雰囲気が出ないと思ったのではないでしょうか。
ヘブライ語でない場合は、次点でギリシャ語かラテン語になります。自身の魔法名をラテン語で名乗っていた魔術師も多かったそうです。この辺りはAZOTの時にも触れましたが、基本的にヘブライ・ギリシャ・ラテン(アルファベット)が魔術では重視されます。
なので日本の魔術研究者は、まず英語の原典を当たりながらその中で使用されているヘブライ語やラテン語も調べねばならないという、二重の大変さを味わわれたのです。筆者がこんな小説を書けるのも、そういった方々が苦労してドキュメントを日本語訳されたおかげです。本当に感謝しかありません。