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没短編『2025年7月5日の後』

 書いたは良いですが、出来が……ちょっと小説の一枠使ってまで公開するのを躊躇う内容だったので、こちらで公開させていただきます。
 没短編なので、お察しください。

2025年7月5日の後(没)
 どこへ行っても、そんなものは妄想だと信じてもらえないんです。
 先生は、信じてくれますか? ……え? まずは話を聞いてから?
 分かりました。お話しします。
 日本は2025年7月5日に巨大地震によって壊滅しました。これは複数の震源による同時多発的なもので、津波により沿岸部は壊滅。内陸部も分断されました。
 特に、政府機能の集中していた東京が壊滅したことが大きく、日本政府はほぼ機能停止しました。
 以後は、政府要人だけがアメリカに亡命。アメリカと中国、ロシアがそれぞれ日本の領有権を主張しています。韓国は基地の関係かアメリカ寄りで、北朝鮮は中国を支持しています。
 え? そんなことありえないって? 確かに、こちら側ではそうですね。
 でも、本当にあったんです。私はこちら側に来られたから無事なだけで……。
 こちら側――と言うものの、意味が分からない? ああ、その説明が先ですね。
 この世界は、日本が壊滅した世界とは別の、並行世界なんです。最近の言い方だと「別の世界線」ということになります。
 だから、この世界では何もなかったことになっています。
 私は、日本が滅亡した世界からこちらの世界に、意識だけをこちらの私に逃がされたんです。
 ……信じられませんか?
 確かに、このまま聞いていてもそうかもしれません。私も、最初のうちはそうでしたから。
 今から、私が信じることになった根拠をお話しします。

 あれは、大学の講義を受けている最中でした。
 急に酷い頭痛がして意識が遠のいたら、ノートに書いてあったんです。

 君は、前の世界のことを覚えているか?

 自分が書いたはずなのに、記憶にありませんでした。
 私はなんだか怖くなって、その時は無視しました。
 しかし、酷い頭痛が起こる度に、記憶にない文字の羅列が起こりました。

 もう、思い出したかい?

 私のことも、思い出せないか?

 私はとうとう、その言葉に返事を書きました。
 おかしいですよね? 自分のノートに書いた字に自分で返事するなんて。

 あなたは誰?

 すると、今度の頭痛の時は内容が変わりました。

 やっぱり、覚えていないのかい。その方が幸せかもしれないが。

 明らかに、私の書いた言葉への返事でした。
 私は驚き、恐れを感じました。それでも、それに対する興味の方が勝りました。
 その結果、私はその「筆談」を繰り返しました。
 答えが来るのは決まって頭痛の時、意識がもうろうとした時で、それも長くても数行ずつなので多くの答えを得るのには時間が掛かりました。
 しかし、筆談は確実に進んでいきました。
 彼は……いえ、彼というのが正しいのかも分かりませんが、人間より高度な存在、いわゆる上位次元の存在で「神」と呼ばれることもあるということ。
 彼は、私が2025年7月5日より少し前に、偶然訪れた社に祀られていたそうです。本来はもっと複雑な名前のようですが、仮に「お稲荷様」としましょう。どうにも混同されていたようで、その社も表向きはお稲荷様を祀ったものでしたから。
 そのお稲荷様は、久々に参拝した人間、私を気に入り、その日の巨大地震の際に私の意識をこちらの世界に逃がしたそうです。彼のような上位次元の存在は、並行世界を自由に行き来できるそうです。
 そして、その後のことは……これもお稲荷様から聞きましたが、先程述べた通りです。

 信じて……もらえませんか?
 やはり、ここでもそうなんですね。まあ、いつも適当な薬を処方されて終わりですがね。どうにもこの手の先生方は、暴れる危険がなければ薬さえ与えておけばよいと思っているようで……いえ、失礼しました!
 家族も私がおかしくなったと、本気で思っているようです。
 けれども、お稲荷様の語ったことは本当だったと信じています。
 根拠? それは……時々、気付くんです。
 皆が話している言語が、私の本来知っていた言語でないと。
 ふと、意識から外れた時に、言葉の意味が分からないことがあるんです。まるで知らない外国語を聞いているような……これは、別の世界に居た頃の「名残」だそうです。
 お稲荷様は私の意識をこちらの世界に逃がし、適応できるように調整してくれました……が、ふとした瞬間に戻ってしまうことがあるそうです。
 もっとも、元の世界に戻りたいとは思えませんが。
 先に述べた通り、日本は領有権の奪い合いで紛争状態。一般人のライフラインは十分に確保されず、場所によってはほとんど無秩序状態だといいます。
 その中で、真っ先に国を捨てた政府要人が安穏としている――腹立たしい話ですが。
 まあ、元からこちらに居た先生が信じられないのも無理はないでしょう。別の世界があるという前提自体、SFの中の話だと思っている人間が多いですから。
 ああ、お稲荷様に聞いた話はまだあるんです。
 え? もう十分? ……聞いておいた方が、良いかもしれませんよ?

 2029年9月20日に、この世界も滅びるそうです。

 以上です。
 某予言を皮肉ったブラックジョークですが、試しに見せてみたところ面白くないそうだったので作品として公開するのはやめました。他にも、細かいところが粗いというのもあります。
 短編でも、そろそろ何か公開したいのですが……この出来では――。

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