一夜にして生まれたわけではありません。毎日の習慣だったわけでもありません。それでもこの十年間、この物語はずっと私の頭の片隅から離れませんでした。いつもそこにあって、静かに熱を帯び続けていました。
こうしてようやく最初の一冊が世に出た今、ふと振り返ってしまいます。本当にそんなに大変だったのだろうか。今になって見れば、もしかするとそうでもなかったのかもしれません。でも当時の私には、到底登れそうにない山のように感じられました。おかしなものです。終わってみるまでは、何もかもが途方もなく大きく見える。誰もがそう感じるものなのか、それとも私だけなのか、時々考えてしまいます。
これは、まだ始まりにすぎません。
二作目と三作目は、すでに出番を待っています。それぞれ七年、五年かけて私の中で熟成されてきた物語です。でもきっと、最初の一冊よりもずっと早く、世界へ出ていくことになる気がしています。
この本を書き上げることで、私は自分についてひとつのことを知りました。私は、これをするために生まれてきたのだ、と。
今の仕事も好きです。十分にやりがいがあります。けれど、書くことから得られる使命感は、まったく別のものです。それは、他の何ものにも埋められなかった人生の空白を満たしてくれるものでした。
私が長いあいだ共に生きてきた物語は、もう私だけのものではありません。今は、読者のものです。
少しおかしいとは自分でもわかっています。反応を何度も確認し、たった一言の感想を待ち続けてしまうことも。それでも、もしかするとそれこそが、書く人間であるということなのかもしれません。誰かとつながりたいと、どうしようもなく願ってしまうことなのだと思います。