まさかギフトをいただける日が来るなんて思ってもみなくて
どう嬉しさを表したらいいか考えている内に時が経ってしまいましたが
折角なので一度やってみたかった感謝SSなるものを書いてみます。本当にありがとうございました!
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明日に成人の式典を控えた夜のこと。自宅でシャワーを浴びたチェラシュカは寝間着を身に纏った。
魔法でさっと身体の表面を綺麗にするだけで済ますことも多いが、たまには自分の手で身奇麗にするのも良い。物理的なさっぱり感は魔法では得られないものだ。
タオルできゅっと髪を絞りながら、裸足でペタペタとリビングへ向かう。
扉を開けた先に居たのは、ソファに腰掛けて一人佇むラキュスである。
「ごめんなさい、待ったわよね」
「いいや」
チェラシュカがシャワーから出るのを待ってくれていた彼は、トントンと自分の隣の空いたスペースを叩く。
素直にその誘導に従ったチェラシュカは、彼に背を向けてソファに腰を下ろす。
「じゃあ……お願い」
「ああ」
彼はチェラシュカの肩にかかった湿ったタオルを手に取り、一度風魔法で乾かす。そして、丁寧な手つきでチェラシュカの髪に触れ、タオルにその水分を移していく。
「いつも思うけれど、こうやって乾かすのはとっても面倒でしょう?」
「面倒じゃない」
即座に否定した彼は、心做しか先程より丁寧に手を動かしているように思える。
幼い頃、風魔法を覚えたチェラシュカは濡れた髪を瞬時に乾かせるようになった。自力でできることが増えて嬉しく思っていたが、ある日勢い良く風を吹かせすぎて髪が絡まって大変なことになり……見かねたラキュスがたまに乾かしてくれるようになったのだ。
それまでは、彼の髪は短いから絡まないんだと思っていたが、全くそんなことはなかった。
「いいか、まずタオルで水分をしっかり拭き取る」
「乾かす前にヘアオイルを付けて、よく馴染ませるんだ」
「適当に勢い良く風を当てるんじゃない、少しずつ上から下向きに当てなきゃダメだ」
どこでそんな知識を身につけたのかと思えば、わざわざロテレに聞いてくれたらしい。たまに彼女が乾かしてくれたときは、そんな手順を踏んでいたような気もする。
彼の細くしなやかな指が、チェラシュカの頭皮を掠める。彼が手に馴染ませたヘアオイルの爽やかな香りが、背後からふわりと漂ってくる。ラキュスが選んでくれた柑橘系のそれは、チェラシュカにとってもお気に入りの香りだ。
彼は髪にヘアオイルを馴染ませたあと、目の荒いブラシを手に持った。
「下から梳かさないと絡まるだろう」
以前そう言ってチェラシュカからブラシを取り上げた彼。髪の内側にブラシを持つのとは反対の手を添えて、羽に当たらないよう少しずつブラシをかけてくれている。
毛量が多いから大変なはずなのに、彼の几帳面さには感心するばかりだ。
頭頂部の髪を持ち上げた彼は、温かい風を当ててくれる。気を遣わなければ一瞬で乾くものを、丁寧にゆっくりと時間をかけてくれるこの時間はとても贅沢に感じる。
温かい空気に包まれ、時折頭をかすめる感触に心地良さを感じながら、ウトウトと瞼が落ちかけていた頃。
「終わったぞ」
穏やかな彼の声に、はっと目を開ける。
「ありがとう!」
髪にすっと手櫛を通してみれば、なんの引っ掛かりもなくスルスルと毛先まで辿り着く。明かりを反射して輝く毛先はしっとりと纏まっており、自分で乾かしたときとは雲泥の差だ。
「いつもしてもらってばかりで悪いわ。どうやってお礼をしたらいいの?」
「別にいらない。チェリの髪を乾かすのがずっと俺だけならそれでいい」
「こんなに手間をかけて乾かしてくれる人、他に居ないわ」
ついクスリとしてしまうが、振り向いた先の彼の濃紺の瞳を見れば、その真剣さに息を呑む。
「……わかったわ。これからもずっとラキュスにお願いする」
「……ああ」
——チェラシュカの髪はこうしてサラサラツヤツヤに保たれている、というお話。