「板橋区よ! 俺は帰ってきた!」
花丸勇太(はなまるゆうた)、五年ぶりの帰還だった。
海外ではない。
もっと遠い異世界から帰ってきたのだ。
ファンタジーな世界で苦心惨憺の冒険を続け、ついに魔王を倒したのだ。
帝国城に帰り結婚を約束していた姫との逢瀬は衝撃的だった。
「え、そんな約束してましたっけ?」
もう、びっくりしたさ。
姫には婚約者がいたんだって。
「あれぇ?」
あんだけ、気のあるような態度で。
あんなに、思わせぶりなことを言って。
寄り添い、触れあう距離感だったのに。
だから、頑張ったのに。
「そっかぁ。俺、勘違いしちゃった」
「もう、うっかりさん♪」
無邪気に微笑む姫。
女って怖い……。
人生16年+5年で知った苦い真実だった。
「姫」
「はい?」
「帰るね。元の世界に」
「え? ちょっと、待って!」
「ううん、待たない。さようなら」
≪一度だけの奇跡≫
それは世界を救った特典。
どんな願いでも叶う奇跡だ。
徐々に薄らいでいく世界をぼんやりと眺める。
「×△×◇×▽!!」
姫がえらい慌てているけど……なんで?
いや、どうでもいいか。
もう関係ない話だ。
バイバイ、異世界。
そうして、俺は帰ってきたわけさ。
異世界に召喚された日に。
異世界に召喚された時のままの姿で。
「うん、忘れよう!」
なんか、変な夢を見ていた気がするね!
白昼夢かな? ハハ!
しっかし五年ぶりだけど、忘れないもんだな。
ディンプルキーなんて文明を感じるね。
玄関の扉を開け、二階の自室に向かう。
「何も変わらないけど、これがいい」
普通が一番なんて以前は理解できなかったけど、いまならわかる。
「ただいま!」
無人の部屋に入ると。
「おかえり」
険のある女性の声が返ってきた。
声の方を向くと……。
セーラー服の少女が俺のベッドに座っていた。
髪が長くて顔がほとんど見えない。
ただし、前髪の隙間から覗く眼光が鋭い。
こいつは……。
「真央(まお)? なんで?」
鍵のかかった家で待っている不審者。
その正体は、うちの隣に住む同級生だ。
いわゆる幼馴染ってやつだね。
だからって、勝手に家に上がっていい道理はない。
「どうやって入った!?」
すると、カバンからスペアキーを取り出す。
「おばさんから預かってる」
「ちくしょうめ!」
ちょっと目まいがしたが、まあいい。
いま俺は猛烈にだらけたい。
早々に、お帰り願おう。
「だらける気だな? そうはさせん!」
「まだ何も言ってないし!?」
心を読まれた!?
いや、まだ慌てる時間じゃない。
俺は勇者。
こんなことで動じるわけがないんだ。
「お願いだから、今日は帰って?」
今度は恐ろしい眼つきでにらまれました。
ちょっと待って、鳥肌立ったんだけど。
フリーズした俺を見た真央はため息をつく。
「まあ、帰ってきたことに免じて許す」
許されました。
よかった。
……じゃない!
「いや、学校から帰るの当たり前だし!?」
「たわけ! 姫にうつつを抜かしていたくせに! どうせ振られたのだろ!」
ん?
あー。
真央さん?
「どうして……」
それ以上の言葉が続かない。
もしかして知っている?
いや、そんなわけが……。
「あるんだよ」
真央の全身が、ビシビシっと輝く。
頭から角が生え、背中には黒翼、髪は銀色に変わる。
その姿はまさか……。
「思い出したか? お前に倒された魔王様だぞ」
「えっと、お久しぶりです」
俺の幼馴染は異世界で倒したはずの魔王でした。