◆二人の設定について
人間サイドの物語を牽引したのは、やはり主人公のカイトと、ヒロインのエリスだと思います。
ただ、この二人の設定は当初からかっちり決まっていたわけではなく、ある程度のイメージからライブ感を重視して固めて言った感じです。
(というか、この作品自体が大まかなプロットこそありますが、物語の展開やキャラはライブ感で決めている部分があります)
具体的な所としては、まずカイトは読者の感情移入として「アバター性」を重視する考えから、当初は兄弟設定などは曖昧なキャラでした。
ただ、彼が死地に向かっていく中で「死ぬかもしれない世界に首を突っ込むのに、理由が『庶民がかわいそうだから』ではしっくりこないな…」と感じ、彼のバックボーンを洗い直した結果「多分こういう生い立ちだな」と固まって行った感じです。
エリスに至っては、実は当初のプロットには存在しないキャラでした。
王道的な追放系に沿って「三人娘と旅をするも、チートの件で見放され、自分を見初めた魔王たちの元に身を寄せる」という骨格だけがあった感じです。
第二話の初登場時点で「エリス」の名前が出ないのは、当初は本当に「主人公を褒めてくれるモブ」だったからという……。
ただ、魔王の誘拐までをさっくり消化すると、山も谷もない話になる……三人娘の根っこを「イヤなヤツ」でなくした事により、メリハリも薄くなっていたわけです。
かといって、誘拐までをじっくり書くとすると、主人公パーティーの蚊帳の外感のある時期を長く書くことになり「追放系のつらい所ばっかり長々読みたくないだろ…」となり。
なので、「主人公の仲間でいてくれる女の子」を一人パーティーに追加しようと思い「このモブの世話役の子が丁度いいな!」と採用が決定。
侍女長もびっくりのいい加減人事です。
そして、気付けば、本来ヒロインであるはずの魔王陣営を置き去りに、すっかりメインを張るように……。
どんな時にも味方をしてくれる、献身的で頼もしい、パーティーを支えるメイドさんと、大分キャラも立ちました。
整合性は考えて調整していますが、それでも悪く言えば行き当たりばったり、よく言えば作者もどう転ぶかわからないライブ感。
本作はそんな感じの作品として楽しんでいただきたいです。
◆カイト=イセ(伊勢海人)
主人公の彼ですが、初期エピソード時点でdiscordの感想募集で体感を伺った所、大分心象の悪い主人公だったようです(笑)
「メタ発言がうざい」
「チートを嫌ってるとか言いながらチートに頼る半端物」
「ジャンルヘイトの化身か?」
「これでシリアスは無理やろ」
「主人公をざまぁする話なら早く没落しろよ、読者離れるぞ」
……的な(笑)
見返すと、本当にすごい嫌われ方してるな……。
実際のところ、大分好みが分かれる主人公というか、基本的に彼は冷笑的な人間であり、褒められた人格ではないと思います。
自分に迷惑をおっかぶせた人間には歯に衣着せずにディスり倒しますし、Web小説は親の仇のように嫌悪してます。
それは彼のコンプレックスを源泉とした鬱屈からなんですが、彼を「アバター」としてみると我が強すぎるんですね。
そんなわけで、最初の方のエピソードは「絶対チートに負けたりしない!」→「勝てなかったよ…」の、トホホ即落ち二コマのコメディ路線で回してました。
この物語は「すんなりサクセスストーリー」ではなく「運命の道化を演じるボンクラの物語」というのは既定路線でした。
そして、彼の人間性の本質は「すごい人には、嫉妬を向けるではなく、素直にすごいと賞賛できる人間でありたい」という所が強いんですね。
それはすごい兄弟に挟まれた彼の、人間としての最低限の矜持で、同時に自分の持ったチートを「偽物の才能」として認めることが出来ない理由でもある。
「本物の才能」と「それに相応しい人格」の見本が身近にあるからこそ、それと合致しないチート転生は嫌悪の対象になっていたわけです。
そんな彼なので、実は作中の独白ほど口が悪いわけでも無く、悪態は大抵内心の中にとどめて、表向きには刺々しい言葉とか使わない感じです(友人間のキツイ物言いは許される範囲で人並みにやってますが)
加えて彼は「現代知識やチートでやった人助けで恩を着せるなんて、みっともないこと語れるかよ。ズルしてるんだからそれぐらいやって当然だ」って思ってます。
なので、現状への鬱屈や険しい壁、チートの存在に不満は漏らしても、他人から辛い目に合されたとか、人を助けたとかは、あまり独白しない。
彼の「いいところ」については、魔王陣営やエリス視点を描くところまで、小出しでお預けになりました。
ちなみに、彼のコンプレックスの源泉である兄弟からは、かなり素直に慕われ、尊敬もされてました。
アツ兄は「器用にこなしてる自分なんかより、苦しんで頑張ってる健気で責任感強い弟だし、報われて欲しい。小学生で一緒にド●クエやってた頃は楽しかったなぁ……」。
弟アキラは「アツ兄と同じで勉強できる努力家だけど、完璧すぎるアツ兄と違って俺の立場に降りて来てくれるから親近感あるんだよな。最近は漫画も自分から見に来てくれるし、アツ兄より俺の方が仲いいんじゃないかな」。
そうした兄弟の好評価にもフィルターがかかって「気遣い」を感じてしまうのは、劣等感に苛まれる者のサガでもあります。
ただ、それでも彼らとの関係が心の支えだったから、エリスや三人娘にも「兄」のような振る舞いを取ろうと考えたわけです。
(三人娘には等身大の次男の自分、エリスに対してはアツ兄を演じたのは、比較してエリスの方をより成熟した大人と見ていたから、「理想の長男」を演じようとした結果と言えます)
基本的に、内心まで見ると聖人とは言えない人間ですが、それでも彼なりに誇りと高潔さをもって生きたい、という指針に沿って生きてる感じのキャラです。
◆エリス=ブライト
モブ発で、展開のヘイト管理を軽減する役割だった彼女。
現時点で一番出世し、人間臭くなったキャラだなと思ってます。
基本的には「勇者様~♡」な感じの「恋する乙女」で、主人公に対するイエスマン的な部分はあります。
ただ、その人格の根幹には「自分の心を自由にしてくれた勇者様だから」という動機があります。
彼女の心には「この社会で将来の自己決定は不可能」という諦念があり、それを破壊し、優しく導いてくれたのがカイトだったという感じです。
彼を「勇者様」という偶像ありきではなく、「捻くれ者の優しい次男坊」という等身大を見て、それでも頑張ってる精神性に尊敬と恋慕を抱いている、という。
呼び名が「勇者様」なのも、がんばって「勇者」を演じるも自己肯定感の低いカイトのことを、「あなたは勇者様なんです」と肯定してあげたかったんでしょう。
旅の中では、勇者や三人娘から護られる立場であり、そのことにもコンプレックスはあったと思いますが、同時に「メイドの彼女にしかできないこと」を率先してやっていたため、メンバーからも頼られていました。
カイトはジーンを影のリーダーと評しましたが、エリスもまた財政と兵站を一手に担うパーティーの最重要人物であるというのは、パーティーの共通認識でもありました。
そういう意味では、エリスにとっての理想であり恩人である「長女」を演じていた期間だったと言えるかもしれません。
ちなみに彼女は、ヒロインとしてカイトと結ばれたい気持ちも強いですが、一方で自分が妾の娘であり、対する勇者は貴族に類する社会的地位を持っている立場のため、「正妻にはなれないかも…でも、妻の一人としてでも愛してくれるなら…」という諦念も持っています。
一方で、これからヒロインとして関係を築いていく魔族陣営の女性陣は「関係の完成してるカイトとエリスの間にどう割り込めばいいっていうんだ…」と頭を悩ませることになります。
作者も同じ問題で頭を悩ませています……。
カイト本人は「こっちの世界では、一人のお嫁さんと愛し合って、幸せに暮らすぞ!」と考えていますが、運命に翻弄される道化であり、なんだかんだ「女の子にモテたいなぁ」という人並みの下心のないわけでも無い彼が、女神も御所望の「異世界ハーレム」という運命とどう向き合うかは……今後じっくり描いていきたいです。