『アガタ』首藤瓜於
※著者である首藤瓜於先生は2026年8月27日にお亡くなりになっています。お悔やみ申し上げます。
特に何も調べずに購入したので、これがシリーズ作品に連なるものだとは知りませんでした。ブックキーパー脳男からのスピンオフに近い形のようです。
ざっくりあらすじを説明すると、証拠が残されていない女子大生刺殺事件が発生。新米刑事の青木一は『地元の有力者の息子がストーカーだった』という噂を耳にし、独断でその男に接触してしまい、管理官を激怒させてしまう。
そんな青木一の前にタイトルにもなっているアラスカ育ちの帰国子女、超絶ハッキング能力と破天荒な行動力、コスプレ趣味で20代の女性警視・鵜飼縣(うかい あがた)が現れる。アガタは「見えているのに見えないもの、それを捜すのよ」と言い放ち、二人は手がかりゼロの難事件の真相へと迫っていく。
というものになります。平たく言えば警察小説に、現代のなろうでもあまり見かけなくなりつつある『属性鬼盛りセクシーおねーさんの活躍劇』を混ぜ込んだもの、ということになるでしょうか。
ここから若干のネタバレ含みます。
先に話しておくとミステリ的期待をすると、かなり評価下がると思います。最後にほぼ不在の主人公アガタさんが盤面をひっくり返すような『ざまぁ系』的なノリが展開されるのですが、これが正直言ってよろしくない。ほぼ伏線も無く、前半の足で稼いだ捜査官たちの努力を嘲笑うように映ってしまう。アガタさんの超絶さを演出したかったのだとは思うのですが、前半に積み重ねが無いので嫌味さが勝ってしまっているなと思ってしまいました。
やたらと東大東大と出てくるのも気になります。学歴がトリック的なものに絡むのかと思いきや、特に何も無かったり。なんだか東大に対しての愛憎のようなものが見え隠れします。
あとは警察小説の宿命なのかもですが、全体の3/5ほどはひたすらに捜査パートで肝心のアガタさんはほぼ不在という思い切ったボリューム配分をしています。
ですので現場刑事のような、砂の中から宝石を見つけるような根気が要求されます。ここをリアルととるか、どうなのかは評価割れそうです。
散々、よろしくない部分を先に言いましたが、良いところも勿論あります。
まずタイトル。主人公名のみ。思い切りが凄い。なかなか見かけなくなったスタイルですよね。そりゃ属性も鬼盛りしますよ。
後半4/5からのテンポの良さもいいです。アガタさんが本格的に絡み出してからは一気に読みやすくなります。
日常の食事シーンがわりと出てきて、特に本編と絡むことは無いのですが、雰囲気作り以上に描写がしっかりしており、飯テロ率は高め。私は昔の刑事ドラマによくある張り込みシーンに入る食事シーン大好き侍なので、これはポイント高かったです。王道ですが聞き込みなどの刑事ドラマ感も雰囲気があっていいですね。
アガサクリスティへのリスペクト描写も多かったので、ここら辺は嬉しい人には嬉しいのかな。自分は映画で数本レベルなので、ここは読み込めなかったですが。
映画先行で観ると、読みを後回しにするの良くないのは分かってはいるのですが……アガサファンの方には申し訳ない。
作品内の流れで、データベースからコンピューターが拾ってきたデータで犯人の割り出しが進むのですが、既に現実でもこれは形を変えてやってるだろうという確信があります。
ひと昔前にはプロファイラーが流行りましだが、このあたりはAIの得意分野なので、公表はしていませんが、間違いなく既に使っていることでしょう。物証は結局のところ現場の人間が拾うことになるので、それだけでは事件は完結しませんが。
2023年の書籍になるので、実際の構想や執筆はもう少し前と考えると、時代を先取りしていたと言えるかも知れません。現実が小説を追い抜いたパターンですね。今後、こういうのはもっと増えるでしょう。
私たちが想定するよりも、AIの進歩が超指数関数的ともいうべきスピードで加速度を増していますので。
余談ですが、自分も公募用作品で30年後のSFを書きましたが……なんなら10年後には実現するかも知れないな、と年代設定に対して弱気過ぎたという後悔があります。
カクヨムには書き手の皆さんが多いと思いますが、近未来の話を描く時は、自分が思うよりも早めに実現するという前提で年代設定すると丁度良いかも知れません。