サポーター限定で新作のプレ公開をしてご意見を窺っている中で、ジェイクの冒険譚を見たいというご意見があったので衝動的に書いてみました。
題名
辺境育ちの転生勇者 ~ゲーム設定の崩壊した世界は全てが手探りだった件~
プロローグ
第1話 転生したら、ゲーム開始前に全てが終わってた件
俺がこの世界に転生したと気が付いたのは六歳の時だったかな。
あれは幼馴染の女の子のハンカチをビッグクローが持ち去ろうとして、俺が石を投げて取り返そうとしたら嘴から零れたハンカチが木の枝に引っ掛かって。頑張ってよじ登ったのはいいんだけど、ハンカチを摑んだ途端、手が滑って地面に落っこっちゃったんだよな~。
気が付いた時はベッドの中、スマホを探したんだけど見当たらなくて、心配顔で部屋に入ってきたマリアお母さんに生活魔法の<プチヒール>を掛けてもらって。
あの時は驚いたよ、だって魔法だぜ? 呪文を唱えたら手が淡く光るんだぜ? 前世に何があって死んだのかまでは思い出せなかったけど、自分が剣と魔法の異世界に転生したと確信した時はテンション爆上がりだったんだよ。
あ、お姉さん、エールジョッキで二つ、あと摘みを適当に持ってきてくれる?
悪い悪い、それで確信しちゃったんだよな、自分は前世でよく遊んでいたゲーム<ソード オブ ファンタジー>の世界かそれに近しい世界に転生したんだって。
今思い返せば思い込みも甚だしいっていうか、根拠はマリアお母さんが使った生活魔法と自分がジェイクって名前だったってだけなんだけどな。
理屈もへったくれもない言いがかり、でもあながち間違ってなかったんだから現実って怖ろしいよな。
で、頑張っちゃったのよ、ゲーム開始前に鍛えまくってスタートダッシュを決めてやるってね。ゲーム脳そのまんま、リアル中二病、こっちだと勇者病っていうんだけど、意味は似たようなものかな。
とはいえ最初はスライム相手に大苦戦、全然上手くいかないうえに同じ村の幼馴染に剣の手ほどきを受ける始末。もうね、速攻弟子入り志願したよ、技術はゲームみたいに簡単に身に付かないってね。
なんやかんやあって村の剣術指南役をしている元冒険者の爺さんのところで剣の修行をすることになって、そこにもう一人の幼馴染の女の子が加わって。こうして勇者になる為の第一歩を歩み始めたんだけど、現実が厳し過ぎるというかなんというか。
修行を始めてしばらく経ったときにスライムに再チャレンジしに行ったジェイク少年、最初は魔法を使って順調にスライムを退治していたのよ。六歳児が魔法よ? 凄くね? でもそこにやたら大きなスライムが現れてさ、魔法を全部はじき返されて魔力枯渇でぶっ倒れるっていうね。あの時は完全に死んだと思ったんだよな、気が付いた時は自分の部屋のベッドだったけど。
そこからは毎日が修行の日々よ、剣に魔法、何度も何度も戦いを挑むんだけど、そのスライムが強い強い、完全に遊ばれてんの。幼馴染三人で手を組んで挑むんだけどさ、毎回ボコボコに打ちのめされるっていうね。
次第に仲間が増えて最終的に六人のパーティーで挑んでたんだけど、最後の最後まで勝てなかったな。大福チャレンジ制覇ならず、スゲー悔しかった。
あ、大福ってのはそのスライムの名前ね、近所のケビンお兄ちゃんが名前を付けて世話してたんだけどね、大福が喜んでるからいつでも遊んでやってくれって言われてたんだよね。
大福にとっては最後の最後まで“遊び”だったんだよな~。
この世界のスライム、マジ強いから。まぁ個体にもよるんだけど、気を付けるに越したことはないってね。
それでなんだっけ、そうそう、ゲームだよゲーム、冒険RPG<ソード オブ ファンタジー>。アレって色んなイベントがあったじゃん、“呪われた王妃”とか“彷徨える闇魔導士”とか“ゴブリンになったお姫様”とか“魔王軍襲来”とか。
“呪われた王妃”は暗黒魔導士が王都に呪いを掛けて、解術の為に暗黒魔導士を倒すと呪いが全て第一王妃メルビア・リア・オーランド殿下に降り掛かるってとんでも仕様でさ。王妃救出の為にエリクサーを求めて大冒険に出るってシナリオだったんだけど、やっぱりいたんだよ、モブキャラ転生者。
賢者ユージーンって人物なんだけど、ゲーム進行上まったく関係がないどころか登場すらしていないにもかかわらず、ハッチャケちゃったんだよね。ラノベとかでそういうの読まなかった? モブキャラ転生者が頑張って主人公以上の活躍しちゃう系のやつ。俺、そういうのも結構好きで読んでたから分かるんだけど、自分がゲームの世界に転生したって分かったらゲーム知識で無双したくなるのが男ってもんじゃね? 俺も最初は似たようなもんだったし。
それでゲーム知識を駆使して本当に<ドラゴンの涙>と<世界樹の葉>を手に入れて、大森林中層にある“楽園の花園”に向かう為にうちの村にやってきたってんだから驚いたのなんの。ゲームだと聖女が“楽園の花園”にある大賢者シルビア・マリーゴールドの墓で祈りを捧げると英霊が現れてエリクサーを作製してくれるって流れだったんだけど、その英霊、うちの村に居着いてたんだよ。
賢者ユージーンパーティー、目が点、聖女様出番なし、あの時は笑いを堪えるのが大変だったわ~。結局村で作ったエリクサーは王家に献上されたんじゃなかったかな? 詳しいことは知らないんだけど。
“彷徨える闇魔導士”は大賢者シルビア・マリーゴールドを訪ねる旅の途中で発生するサブクエストで、オーランド王国北西部の大森林周辺の村々を滅ぼしまくった闇魔導士の討伐ってやつだったんだけど、うちの村どころか周辺の村々はどこも滅びてないんだよね。
このサブクエストの敵役である暗黒魔導士自体が現れなかったっていうね、この時点で相当だろ?
“ゴブリンになったお姫様”は結構な鬱イベントで有名だったんだけど、これもな~。ゲームでは説明されてなかったんだけど、このゴブリンになったお姫様、ヨークシャー森林国の公爵家令嬢で、前の精霊姫様だったんだよね、こっちでは病死扱いになってるけど。
でだ、これがバルカン帝国の呪術部隊による謀略だったっていうね、いや~、怖い怖い。
まぁこの呪いも今は解けて元気に暮らしてるんだけどね、詳しいことは内緒、アンタもお貴族様のごたごたに巻き込まれたくないだろう?
最後、一番ヤバい奴、“魔王軍襲来”。暗黒大陸から魔王軍四天王率いる大部隊が中央大陸に攻め込んでくるってシナリオ。クエストに失敗すると中央大陸の半分が魔王軍によって攻め滅ぼされちゃうっていうとんでもないやつ。
これなんだけどさ、もう終わってるんだよね。魔王軍四天王どころか魔王アブソリュートまで完全敗北、魔王改め魔国王アブソリュートの下魔国の再編が進んでいるっていうね。
意味解らないだろう? 俺も分からん。ゲーム知識の魔王四天王はちりぢりになってるらしいし、魔国が中央大陸に攻め込む芽は完全に断たれちまってるんだと。
な、驚いただろう?
俺もアンタから「赤髪のジェイクが何でヨークシャー森林国に、ここに来るのは冒険商人アレンのはずだろう」って言われた時はびっくりしたけどな。
アンタの推測の通り俺は転生勇者ってやつだけど、既に倒すべき魔王はいないんだわ、攻めてくるつもりもないらしいしな。
だからまぁ前世のゲーム知識でどうにかってのは、ある意味上手く行くかもしれないけど、頼り過ぎは危険だと思うぞ。
それとこれは同じ転生者としての忠告だ、今をしっかり生きろ。前世はあくまで前世、こことは別の世界の物語にいつまでも執着してたら大切なものを見失っちまうぞ?
幸い俺には頼もしい仲間と理不尽な兄貴分がいたからな。
まぁ頑張れ、ここは俺が奢ってやるからよ。
とある国のとある居酒屋、酔っ払いが愚痴を吐き、俺は素面だと言いながら夢物語を語りだす。
そのテーブルの二人の客は、エールのジョッキを摑み打ち合わせると、くだらない戯言に花を咲かせるのであった。
こんなんどうよ。
ジェイク君の一人語りから始まる感じ、ちょっと良くね?
by@aozora