こんにちは、@aozoraです。
カクヨムネクストの特別企画でホラー作品を書く事になったのはいいんですが、私ホラーって書いた事ないんですよね。
ですんで二部書いてどっちか選んでくださいって提出したんですわ。
そんで選ばれなかった方、没作品なんですけど、お蔵入りってのもね。
なので供養を兼ねて掲載させて頂きます。
短編ですので気軽に読めると思います。どうぞご覧ください。
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坐骨神経痛
それは庭先で長男とバトミントンをしている時だった。
“グギッ”
飛んできたシャトルを打ち返そうと右足を踏み込んだ瞬間腰に走った強い痛み、これはやっちゃったかと思い急ぎ家に入ってシップを貼った私。
その日の晩は遅番の仕事が入っていたため急に休む事も出来ず、そのまま職場に。痛みを誤魔化しつつ何とか仕事を熟し、ほっと一安心して家に帰ったまでは良かった。
「ウガーーーーッ」
明け方強烈な足の痛みに目を覚ます。昨日痛めたのは腰だったにもかかわらず、痛みが生じたのはふくらはぎ、これまで経験した事のないような痛みだが状態としては足がつった様な感じで、筋肉が硬く硬直している。
ほんの少しの動きでも強烈な痛みが右足全体に走るため起き上がる事も出来ず、仕事場に連絡を入れしばらく休みを貰う事に。
「坐骨神経痛ですか?」
二日後、何とか起き上がる事の出来るようになった私は、妻に頼んで整形の病院へ。そこでの診断結果は「坐骨神経痛でしょう」との事。
「痛みが落ち着くまでなるべく安静にしていてください。その後もしびれや痛みが続くと思いますが、電気療法を行い様子を見ましょう」
私は処方された塗り薬と痛み止めを貰い、未だ止まらぬ筋肉のツッパリの為につま先立ちになった右足を引き摺りながら、妻に送られ家へと戻る事になった。
これから先どうなるのだろうという心の不安を抱えながら。
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「先生、あの、よろしかったのでしょうか?」
診察室では若い看護士が先程の患者の処方箋を受け取りながら言葉を掛けて来る。
「ん、何がだい?あぁ、先程の患者の事かな?
症状としては発症前日に腰に痛みが走り、腓腹筋・ヒラメ筋の拘縮による痛みで目を覚ました。痛みの発症部位は右下腿全体に及び、皮膚の感覚異常がみられる。
典型的な坐骨神経痛の症状と考えられるが何か問題があるのかな?」
看護師は私の言葉に何か言い淀むようなそぶりを見せるが、私は続けて言葉を向ける。
「医師の仕事は患者の症状を聞き状態を観察し診断を下す事、そこに余計な思い込みや先入観を付け加えてはならない。
先程の患者の症状は誰が診断しようとも坐骨神経痛で間違いないだろうと私は確信している、それは君も分かるだろう?
さぁ、次の患者が待っている、準備を」
私に促され仕事に戻る看護師、彼女は若い、これから様々な経験を積む事でどんな事態にも動揺しない精神が養われる事だろう。私はそんな彼女の将来を思いながら、先程の患者の事を記憶の片隅に仕舞い込む。
右足を痛めまるで複数の人間にしがみ付かれているかのように重そうに引き摺りながら、診察室を離れていった患者の光景を忘れようとするかのように。