• 現代ファンタジー

花月堂夜想譚 各章主人公のその後【第三章 直哉】

「動物虐待の疑いで容疑者を逮捕。容疑者は自分のSNSで個人情報を誤って流し——」
 午後23時のニュースに、俺はテレビを振り向いた。
(……ああ。そうか)
 犯人の顔を、知っている気がした。
 皮膚が変色してボロボロの顔。
 こいつがちまきを殺したということも、心のどこかでこうなると知っていたような気も。
「あ、SNSで炎上してたやつだ。悪いことすると自分に返るのね。こいつ、絶対許せない」
 隣で、最近付き合ったばかりの彼女が顔をしかめる。

 彼女にちまきの話をしたことはない。
 話してショックを与える必要もないと思っていたし、いつか話すとしても今じゃないと思っていた。

「明日の休み、どっか行くか?」

 空気を変えるように提案してみれば、彼女は少し考えて、ふっと笑う。

「直哉、疲れてるじゃん。無理しなくていいよ。なんか美味しいもの作るから、明日は家でゆっくりしよ?」

 茶色に染めた髪に縁取られたその笑顔に、一瞬だけちまきが重なって見えた。
(……似てるな)
 仕草も、声のトーンも違うのに。
 似ても似つかないはずなのに。
 
「……じゃあ、よろしくお願いします」
「はい。期待してて」

 彼女が嬉しそうにうなずく。
 虐待犯のニュースは、もう耳に入らなかった。
 ただ静かな幸福が、じんわりと胸に広がる。
 悲しみは消えない。
 でも、ちゃんと前を向ける。
 ちまきとハナに約束した以上は。

(有り難うございます。これで、生きていけます)

 誰に向けたのか分からない感謝が、静かに心から零れた。
 どこかで風車がカラリと回ったような気がしたが、それはグラスの氷が溶けた音かもしれない。

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