虫歯になったことがないのが自慢だった。
けれども、見つけてしまったのです。
歯のミゾに鉛筆で書いたような黒い線があるのを…。
痛みはない。
本当にこれが、虫歯なのだろうか…。
私は意を決して、歯医者を訪れた。
矯正歯科は何度も訪れたことがあるが、
歯医者は片手で数えるくらいしか行ったことがない。
矯正のため、永久歯を4本抜く必要があり、その時に行った以来である……。
小学生の時だった。
あの時、永久歯を抜いた時の痛みが忘れられない。
目から火花が飛び出して、私は確実に幽体離脱した。
虫歯も同じくらい痛いのだろう……。
「虫歯の初期ですね〜」
お姉さん先生が言った。
やはり、虫歯だった!!
「先生! 私、初めての虫歯なんです! 痛いですか?」
尋ねると、先生は元々ハの字の眉をさらに下げた。
「初めて……ですか」
先生はおもむろに目の前にあるモニターをつける。
そして、アニメ動画を見せてくれた。
その内容は大雑把にいうと以下のとおりである。
虫歯になった歯を、削ります。
削った歯に、聖なる光をあてます。
プラスチックを注ぎます。
完成〜〜✨
動画をプチッと消すと、先生は私の顔をのぞきこんだ。
「痛みには、弱いほうですか?」
……え?
「たぶん、あの、ハイ(震え)」
先生は困ったように眉を下げる。
「痛かったら、麻酔しましょうね」
(痛かったら?)
びびっているうちに、椅子が倒される。
えっ、えっ、心の準備が!
もう始めるんですか?
「お水が跳ねるので、お顔にタオルかけますね」
目隠しをされてしまえば、もう何が起きるのかわからない。めちゃくちゃ怖い!
おお、神よ……。
私はもうだめです……。
アーメン。
「お水がでますね〜」
右から先生の声がして、口の中に水が注がれる。
左に助手がいるのか、別の器具が入れられたような気配がした。
そして、水を吸い取っている。
細長いホース状の掃除機が、水を吸い込んでいるように思えた。
そうだ。
水が流され、水を吸い取っている。
一体、何が起きているのだ。
私の口の中で。
水が、移動している。
「痛いですかー?」
先生の声が聞こえた。
「痛かったら、左手をあげてくださいねー」
本当にこのセリフ、言うんだ。
と、ある意味感動を覚えた。
だが、痛いはずがない。
なぜなら、私の口の中では、
右から水が注がれ、
左からその水を吸い込んでいるのだ。
この謎の儀式には一体なんの意味があるというのだろうか。
水は一体、なぜ放流されているのか。
そして、一体いつになったら先ほど動画で見た
歯を削る作業になるのだろうか……。
私は尖ったドリルが口の中入ってくるのを想像して、手を握り合わせた。
ああ、古代エジプトの歯科治療は痛かっただろうな。
徳川家康も虫歯になったんだっけか。可哀想に。
走馬灯のように、歯の歴史が頭の中を流れていく。
ああ、可哀想な私の歯。
頭を削られてしまうなんて、可哀想!
「はい、終わりましたよ〜」
え?
おわ、おわり??
ドリルは?
「痛くなかったですか?」
体を起こして、神を仰ぎ見るように先生を見た。
「全然痛くありませんでした」
水が、右から左に移動していただけです。
「削ったん…ですか?」
私は半信半疑である。
「はい〜」
先生は再びモニターをつけ、
治療後の歯を見せてくれた。
そこには、真っ白しろになった私の歯がうつっていた。
驚いた。
現代に生まれてヨカッターーー!!!!
「ただ……。先ほどレントゲンを撮ったさいに、爆弾が写っていました」
なん、だ……と?
「これを見てください」
先生はモニターの写真を変え、レントゲン写真をうつしだす。
そこには、恐るべき事実が写っていたのだ!!
古代遺跡の柱のように、
一本の親知らずが横向きに埋まっている。
「せっ、先生!これは!」
嘘であってほしい、と願う。
しかし、無情にも先生はしっかりとうなずいた。
「大学病院で抜く必要があります」
だっ、大学病院だってぇぇええええええ????
To be continued……
次次次次回、発掘される親知らず。絶対応援してくれよな⭐︎