近頃、朝晩の風が少しだけ冷たくなった。窓から入ってくる空気も、夏の熱気を帯びたそれとは違って、どこか静かで、物思いにふけるのにちょうどいい。
ついこの間まで、セミの鳴き声がやかましくて、一日中エアコンの効いた部屋に引きこもっていたはずなのに。気がつけば、いつの間にか夏休みは終わっていたみたいだ。
この夏は、たくさんの本を読んだり、普段行かない場所に足を運んだりして、色々な世界に触れることができた。まるで、頭の中にある引き出しを一つひとつ開けて、新しいものを詰め込んでいくような毎日だった。
だけど、今日だけは少し違う。
勉強机の椅子に座り、窓の外をぼんやりと眺める。読みかけの本も、書きかけのメモも、今日は少しお休み。頭の中は、夏休みの思い出を巡る旅に出ている。
あの日食べたかき氷の冷たさ。
夕立の後の、アスファルトの匂い。
夜空に咲いた花火の、一瞬の輝き。
そんな、些細な出来事たちが、キラキラとした光の粒になって、心の中に降り積もっていく。
「ふぅ…」
小さく息を吐くと、窓ガラスが少し曇った。
このまま、もう少しだけ、夏の終わりの余韻に浸っていよう。
もうすぐ新しい季節が来る。たくさんの新しい知識や、経験が、私を待っている。
だから今は、少しだけ腑抜けた自分で、この静かな時間を味わうことにする。
