こんばんは。通院モグラです。
最近通信環境が不安定な場所で仕事をしていて、皆様から頂いたコメントにご返信が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした…!
読むのはなんとかできるのですが、コメント送信が飛ばなかったりして歯軋りしていたので、御作品への感想もなかなか書けずじまいでした。
久しぶりに帰宅してPCを開く時間が取れるようになったので、また皆様と交流させて頂ければなと思います!
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書いていく中でどうやって文章を組んだらいいんだコレ…と悩むことが多々あるのですが、最近特に拙作『Eden』の方でギャグやアクションを書いてなかったので、練習しよう!と思ってギャグ&アクション回(当社比)を書いてみたはいいものの…
本編には挟めずに没になった短編がいくつかあるので、突然ですがここで供養させて頂こうと思います。
皆様の御作品を拝読しているとすっっごく面白い会話劇とか、声だして笑っちゃうシーンとかあって、これは狙ってやっておられるなぁ!見事に笑わされてしまった…というのがたくさんあって憧れますね〜。
やっぱり意図的に面白いシーンが書けるスキルって、特に長編を書くにあたっては必要な技術なのかなぁと感じます。
あとアクションシーン!これも難しいです。
戦闘シーンに限らず、コミカルな会話劇の中でもキャラのリアクションなんかを立体的に魅せられる書き手の方々がたくさんおられて…度々読み直しては研究させて頂いています。
皆様が書かれている時に気をつけておられるポイントとかコツとかあったら、ぜひ問題ない範囲で教えていただければと思います…!
それでは拙作『Eden』の番外編です。
練習用にふわっと書いたものなので、御目汚しになりますが…!
お楽しみ頂けたら幸いです。
◤Eden:番外編「空飛ぶ白衣」◢
あの日、病院が震えた。物理的に。
ことの発端は、いつものようにローテ表のミス修正に追われていたハンニバルが、
「今日こそ、平和な一日であってくれ」と口に出した、その3分後である。
――館内スピーカーが弾けた。
《Code Blue ICU通路4番 応援要請——》
その音だけで、エデンの呼吸が変わった。喉の奥で小さく噛んだ息が、戦場の空気へ切り替わるときのそれだった。
立てかけていたカーディガンが揺れ、視界の端でハンニバルが振り返る。書類を片手に「え?」と口が動きかけたその刹那、エデンの右手が迷いなく彼女の腰をさらう。
抱え上げる動きは軽い。無重力に近い。けれど、腕の中で身体を固定する角度だけが異様に正確で、ハンニバルの背骨に沿うように手のひらが吸い付く。
「ちょ、エデ――」
次に起きたのは軽く世界がひっくり返る感覚だった。
ハンニバルは片腕で首根っこごとさらわれた猫みたいな体勢で、すでに時速不明の軌道に乗っていた。
白衣が風圧で水平に広がり、スクラブがめくれそうになるのを必死に抑える暇もない。
廊下の床を蹴る音が連続する。
蹴る、というより、爆ぜる。
金属スリットを叩きつけるような衝撃音が連続し、床タイルが後ろへ弾丸のように吹き飛んでいく。
「まっ……待って待って待ってエデン!!ここ廊下!患者ァ!!」
「——ショートカット、します」
低い声。
その宣言が、死刑宣告に近い意味を持つと知ったのは次の瞬間。
エデンは廊下の角を曲がらなかった。
曲がらず、壁を走った。
点検用の横梁へ「跳ぶ」という選択肢すら省略し、壁沿いに爪先だけで垂直に走り抜ける。
白い壁紙が破れ、石膏が砕けて飛び散る。
天井近く、看護師が悲鳴を上げた。
「うそでしょ!?ちょっ、エデンくん!?降りてきてッ!!」
「……通路、渋滞してたので」
エデンは淡々と答えながら、高架配線のケーブルの上を二歩だけ踏んで跳躍。
ハンニバルの胃袋はその動きについていけず、物理的に上下逆になった。
「ちょ、は、吐く、吐く吐く吐く!!」
「……あと20秒で到達します。」
「どこから到達すんの!?やめろ!?階段降りろ!!」
「階段……遠いです」
嫌な予感しかしない。
エデンの動きが一瞬だけ止まる。
止まったというより、力を溜めた動物の静止。
ハンニバルはその顔面の横にあるのが、《病棟5階の非常窓》だということに気付いた。
「エデン。
お前の視線の向きが……
おかしいぞ。
やめろよ?
やめろよな?
やめろって言ってるだろ!?聞いてるのか!?
わたしは嫌だぞ!?窓は移動するための場所じゃないぞ!?」
「——行きます」
ガッッッシャァァァァアアアン!!!
破砕音は爆発のようだった。
分厚い強化ガラスが蜘蛛の巣状に裂け、外気が雪崩れ込む。
エデンは窓枠を蹴り飛ばし、ハンニバルを片腕で完全に保護したまま、建物の外へ飛び出した。
落下の風圧が白衣を上へめくり上げ、ハンニバルの絶叫が空へ消える。
「ぎゃああああああああああああ!!?!!?!?」
エデンの顔は無表情のまま。
風で髪が千切れそうに流れるが、その琥珀の片目は完全に一点へ固定されている。
五階からの降下も、彼の身体にはただの運動調整。
外壁の排水パイプへつま先を軽く掛け、重力方向へ対角線のベクトルを作り、速度を殺す。
二段目のステップでは、ハンニバルの負荷をゼロに保つために体幹を捻り、衝撃の吸収ポイントを自分の腰と脚だけに集中させる。
最後の一歩。
エデンの足が地面に触れた瞬間、ハンニバルの身体だけは揺れもしないほど包み込むように固定され、彼自身は人体の限界を越えた角度で着地し、膝を吸収材のように沈めてショックを殺した。
コンクリが粉雪のように舞い上がる。
静寂。
ハンニバルは震える声で、胸の中から絞り出した。
「……い、生きてる……わたし、無傷……?」
エデンは淡々とした声で言う。
「しっかり着地できました」
「着地じゃねぇよ!!窓は!?あの窓どうすんの!?ガラス代は!?私の精神は!?!?」
医療棟の職員たちが、警報音の中で呆然と立ち尽くしていた。
エデンは無反応のまま、ICU通路へ向けて再び走り出す。
腕は背中と膝裏をがっちり支え、完全に護衛型の抱え方。戦場で味方を背負って撤退するあのフォームそのまま。
「おろせ! 走るな! 聞いてるのかバカエデン!」
「少佐は持ち運ぶべき重要医療資産です」
「運ぶな! 医者を運ぶな! 人間なんだ私は!!」
「あなたの初動判断が、生存確率を変えます。今、同伴が最適です」
「おろせええええ!!!」
文句の勢いとは裏腹に、ハンニバルの手はエデンの胸元を掴んだまま離れない。息が乱れ、震える。だがその震えが恐怖だけでないことを、エデンは知っている。
彼女の体温が、腕の中でまだ熱い。
到着タイム、発報からわずか25.7秒。
通常、最短ルートでも最速スタッフで1分弱。
だがこの時、エデンは医師ごと運んでその速度を叩き出した。
処置室の自動ドアが開いた瞬間、彼はハンニバルを空中で身体ごと前捌きし、彼女がそのまま立ちポジに入れる角度で配置して、着地した。
つまり、ドアが開いた瞬間にはもう、
「誰の心停止!?初期波形は!?」
「ICU03の患者です!吐血からのPEAで――」
「挿管準備して!胸骨圧迫は止めない!エデン、右前腕からルート確保。入り次第アドレナリン1mg!」
──ハンニバルは、すでに医者だった。
その後、輸血と酸素投与により、患者の心拍は再開し緊急内視鏡室へ搬送された。
命を拾った患者の家族が何度も頭を下げる中で、ハンニバルはまだ顔を赤くしていた。
「……絶対後で修理費請求くるぞ……くっそ……」
「病院からは非常時の処置として処理される見込みです」
「違う、そうじゃない。精神的慰謝料だバカ」
エデンは黙ってガラスの破片を彼女の肩から払いながら、静かに言った。
「……でも、助かりました」
「……」
「あなたが運ばれたから、処置は間に合いました。
自分が入っても、意味がない。あなたじゃないと、命は拾えなかった」
*
以降、院内にてJ-MET12による突入経路への注意が通達された。
【!】緊急時の手段として「窓侵入」を選択する可能性あり。
対象窓付近では、予告なきガラス破壊に注意されたし。
※特に白衣を抱えた状態で飛来する場合、医官の叫び声が伴う可能性があります。
以降、彼女が昼に「今日は平和であれ」と言うたび、スタッフ全員が緊張するようになったのは言うまでもない。
——そしてその背後で、ガラス補修の請求書がトリガーの机に積まれていくのだった。
(後日談として、トリガーはそれを見て「救命処置の一環」と一言呟き、すべて経費処理で通したという)