自主企画とカクヨムコン短編に参加するために書いた『俺の人生、拡散希望』ですが、ありがたいことに多くの星やハートをいただいております。
私は基本的に物語を書き直したり追加したりしないのですが、この作品だけは最終話を迷い、三種類のエンドを書いています。
採用したのは、泥臭さを表現したもので、昔のネットのノリを再現したような内容です。
しかし、せっかく書いたものなので、供養がてら、残り二つもここに記しておきます。
少々長い記事になりますが、暇なときに読んでみてください。
俺の人生、拡散希望
最終話のボツストーリー
『その1 幸運編』
僕は外伝的なエピソードを数話分付け加え、最終的に中編くらいの規模の作品に仕上げ、太郎の物語である『俺の人生、拡散希望』を終わらせた。
閲覧数1万を超えるには物足りないサイズ。
でも、あえて終わらせることで、閲覧数が増えるジンクス、いわゆる完結ブーストを狙ってみた。
とはいえ、閲覧数1万を達成するには、僕の物語が弱いのは自分でわかっている。
今の流行のテンプレートに沿った物語ではないし、ラブコメのような強いジャンルでもない。
閲覧数を稼ぐには不利な条件しかないけれど、作中の太郎が歯を食いしばって自分の人生を立て直したように、僕自身も自分の信念を貫いた作品で勝負しないと、渚は納得してくれないと思えた。
渚との将来は、あとは僕がどれだけ拡散できるかどうかにかかっている。
◇ ◇ ◇
来る日も来る日も、寝る間も惜しんで誰かの作品を読みに行くことで、太郎の物語の拡散を続けた。
ある日、名のある作家が『生々しい描写は一読の価値あり』として、僕の宣伝投稿を引用してくれたおかげで、爆発的に閲覧数が増えた。
一度火が点くと、拡散力は一気に高まり、日を追うごとに閲覧数は増えていく。
残り一週間で、閲覧数は9,000を超えるまでになった。
でも、同時に『飽き』も訪れ、閲覧数はみるみる減っていった。
達成と失敗の瀬戸際に夜も眠れず、熱にうなされるように閲覧数とSNSのことで頭がふらふらになる。
焦るばかりの僕。ざわつく気持ちと思苛立ちが心の奥底から暴れだし『いいから読めよ!僕の夢を叶えさせてくれよ! #拡散希望』と思わず投稿した。
当然、返ってくる反応は冷めていた。
『それがお願いする態度かよ』
『テメーの夢なんて知らねぇよ』
『自分勝手な言い種で草も枯れる』
返信された一つ一つの言葉が、僕の胸に深く突き刺さった。
その痛みに動けなくなった僕は、その場に倒れこんだ……
◇ ◇ ◇
目を覚ますと、見慣れた部屋の天井。
おでこがひんやりとして心地いい。
ほんのりと、優しい匂いが漂ってきた。
視線を向けると、キッチンに渚が立っていた。
「あれ……」
掠れきった声が、喉から漏れた。
「あ、起きた? 連絡したけど反応ないから来てみたら、倒れてるんだもん。驚いたわ」
渚はいつものような温かい笑顔を向けてくれた。
「あれ、今……いつ?」
「えっと……約束まで5分だ……」
「うそっ……」
僕は慌ててスマートフォンを開く。
閲覧数は、9,996……
ギリギリ届いていなかった。
もう、達成は無理だろう……
「渚……今まで……」
絶望感に苛まれながらも、僕は約束どおり渚との別れを受け入れようとした。
「ちょっと待って……」
渚は僕を無視してスマートフォンを操作している。
もう、話をくれないのかと、僕はカタンと肩を落とす。
「目標達成だね。面白かったよ!」
渚はとても晴れやかな顔で、スマートフォンの画面を見せてきた。
『俺の人生、拡散希望』の閲覧数が、ちょうど1万になっていた。
「白雪の本気、本当に嬉しかったよ。そして、ごめんなさい……」
渚はいつの間にか泣いていた。泣きながらキスをしてきた。
「僕のほうこそごめん。きっと君を支えられる男になる。そんなに待たせないから、その時は……」
「ちゃんと待てるよ、愛してる」
少しの間抱き合っていた僕らだったけど、鍋が吹き出して慌てて離れた。
「こぼれちゃったね!」と笑う渚との輝ける未来を、僕はみんなに拡散してやりたくなり、思わず吹き出した。
〈了〉
・綺麗に終わらせる点で書いたものの、カタルシスが弱過ぎるためボツに。
『その2 破局編』
僕は外伝的なエピソードを数話分付け加え、最終的に中編くらいの規模の作品に仕上げ、太郎の物語である『俺の人生、拡散希望』を終わらせた。
閲覧数1万を超えるには物足りないサイズ。
でも、あえて終わらせることで、閲覧数が増えるジンクス、いわゆる完結ブーストを狙ってみた。
狙いどおり、閲覧数は増えてきた。
僕がさらに、李世の助言でダイエットに励んだ太郎に恋人ができるという、ラブコメ風のサイドストーリーを追加すると、勢いは増した。
仕事の締切も迫るなか、寝る時間を惜しんで作品に向き合い、SNSをチェックしては拡散を続けていく。
自分を削るような毎日のなか、渚から『凄い頑張ってるね! もう少しだね!』とメッセージがきた。
それは、渚らしい飾り気のない、応援のメッセージ。
でもそれが、僕の心を酷く冷たくした。
僕は、いつも頑張ってきた。
この物語を書く前からずっと、渚との将来を考え、二人で長く幸せに暮らせるように生活を切り詰めて貯金してきた。
少しでも爪痕を残せるように、頭をフル回転させて仕事をしてきた。
今も、僕は渚との将来を守るために必死で取り組んできた。
何気ないメッセージのはずなのに、そこからは、ただ僕を試したかったかのような軽さしか感じられなかった……
僕の見えない努力は、渚には届いていなかったのだと思えて仕方なかった。
全てが悲しくなった僕は、その日、筆を折った。
それからの僕は、現実世界から断絶した生活を送るようになった。
渚との新生活を夢見て貯めた貯金を切り崩し、ネットスーパーを利用することで引きこもり生活を手に入れた。
閲覧数は一万を超え、渚からは電話やメッセージが来ていたが全て無視した。
家にも来たようだが、応じる気力もわかなかった。
もう何もかもどうでもよかった。
僕は、僕が描いた男になった。
ネット掲示板に嫉妬とひがみに満ちた呪詛をばらまき、屁理屈でマウントを取って溜飲を下げては、自慰行為に耽る。
部屋はゴミで溢れかえり、ゴキブリが這いずる音が夜な夜な響いてくる。
どのくらい月日が経ったかわからない。
ある日僕はSNSを開き、最底辺の男の部屋を撮影して、こう投稿した。
『下らないことで人生諦めた僕を晒してやるから助けて #拡散希望』と。
〈了〉
・白雪には幸せになってもらいたかったのでボツ。