• 現代ファンタジー

知らぬが焔 第1話(修正前)

年に一度
全国の祓い屋、陰陽師の血を引く者、その他、祓いの技術に精通している者が一堂に会し、
とある土地の|瘴気《しょうき》を祓う行事が行われる。

これを、「|大祓の儀《おおはらえのぎ》」と呼ぶ。

この行事を通して、多くの者達は名を売り…または泊をつけ、または金を稼ぐ場でもあった。

山の奥深く。
封印の|注連縄《しめなわ》に囲まれ、一般人はまず立ち入ることが出来ない。

開けた土地の中央には、枯れ果てた大きな大樹が鎮座する。
その巨木は、まるで永い永い|刻《とき》の残酷さを見せ付けてくるようだ。

「ーー以上が、大祓《おおはらえ》の概要である。皆、例年通りに、魔物には十分に気を付けてーー」
運営の取締役であろう初老の男の言葉もそこそこに、祓いの行事が始まる。

それぞれ各区間、グループに分かれ、
作業を行う。

有害な瘴気が充満しているとは言え、
皆、祓い事に精通し、瘴気に耐性のある妖の血を引く者達ばかり。
比較的ラフな格好の者が多い。

ーーそんな中。

1人、|狩衣《かりぎぬ》の様な由緒ある陰陽師の正装に身を包み、顔は面布《めんぷ》で隠され、どこか神々しさすら放っている者が居る。

けれども、仰々しいその姿は、周りの者達から少し浮いて見えた。

「おいアレ……ちょっと大袈裟じゃね?」
「初心者なんだろ、きっと」

少し小馬鹿にした様なヒソヒソ声。

しかし、
その衣装に描かれた家紋を見つけた途端。

声は止まる。

桜の花弁を模したその家紋。
代々と続く、人間の陰陽師の名門一族。

ーー七ノ城一族。

クルッと振り向き、面布の向こうから、
優しく凛とした少女の声が聞こえてくる。

「本日は、よろしくお願いします」

「あ、あぁ…」
男の声が一瞬、震えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
祓い屋達が浄化に四苦八苦している中。

正装に身を包み、護符を握りしめ、
真姫は淡々と瘴気を浄化していく。

詠唱も、祝詞も唱えない。
洗練された、一切の無駄のない所作。
他の追随を許さないそれは、もはや芸術作品に近かった。

驚嘆の視線と言葉が交わされる中、
真姫はただ黙々と、瘴気を祓っていく。

ーーふと、真姫は目線を別の方に移す。

巨木の根元。
人ひとりが入れそうな木の洞の近くに、
数人の若い、同業の男達が群がっていた。

初参加なのだろう。
所作で何となくそう思えた。
真姫は忠告のつもりで声をかける。

「……あの、そこはあまり…近付かない方が良いですよ」

「そこら辺は瘴気が濃いので。それに、魔物が潜んでる可能性も……」

男達は振り返り、真姫の姿を見て一瞬だけ嫌そうな顔をする。

「…大丈夫っすよ。俺らプロなんで〜」

若い祓い屋達は薄ら笑みを浮かべ、軽く受け流す。

「瘴気耐性も《《あなたとは違って》》、ある程度あるんで」

何処か嫌味を含んだ声。
ヘラヘラと嘲笑する様な声色に、
真姫の喉が小さくヒクッと鳴る。

「…そう言う問題では無いです」
声のトーンが少しだけ低くなる。


ーーその時、木の洞から唸り声。
「……グルル……」

木の洞から這い出る影。
獣の形をした魔物が、ヌッとその姿を現した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ーー!!」
真姫は構える。

「ーー誰だ!魔物を起こした奴は!!」
「まずいぞ!離れろ!!」
遠くから他の祓い屋の声が轟く。

場の緊張感が一気に高まる。

男達も構え、戦闘体勢へ。

「この手の魔物ぐらい、余裕だっての!」

震える手で護符を握りしめ、目の前の魔物を見据える。

「ーーッグルルルアアァ!!!」

魔物が雄叫びを上げた。男達に飛びかかる。

男達は必死に躱し、迫る爪を防ぐ。
…が、余りにも敵は素早く、力強い。

男達の繰り出す妖術は|悉く《ことごと》弾かれ、砕かれ、力量を見誤った男達は、為す術なく蹴飛ばされ地に伏していく。

手練のはずの周りの祓い屋達も、
凶暴な魔物には簡単に手が出せずにいた。

「や、やめろ……!こっちに来るな!」

ーーグルル……!

転んだ男のもとに、魔物の牙が、
爪が迫る……。


ーーバッ。


ガキィィィン……!


魔物の爪を、淡い桃色の刀身が受け止めた。

ギチ……と軋む音。
真姫の骨が悲鳴をあげる。
しかし、真姫は焦らない。冷静に。冷静に。
状況を見極める。

ギョロリ。
魔物は目の前の獲物を捉えている。

真姫は一度、深呼吸をし、刀身に手をかざす。

「…五行神に願い申す。御身の守護を以て悪鬼を滅し、祓い清めよ」

短い呪言と共に、刀身が淡い光を帯び始める。




ーー刹那、一閃。




素早く振り抜かれた刀身は残像を残しながら、魔物の喉元を確実につらぬいた。

メリメリ……
嫌な音を立てて、首がおちる。
地面を震わせ、巨体が地面に倒れていく。

「う、嘘だろ…あんな一瞬で…」

「たった一人で……?」

驚嘆と、畏れにも似た視線の中、真姫はゆっくりと呼吸を整える。

鞘を握りしめる真姫の手は僅かにーー

ーー震えていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

地面にへたり込み、唖然とする男達を前に、
真姫は冷ややかな目線を向ける。

「だから言ったのに。あの場所は魔物が潜んでる確率が高いから、誰も近付かない場所なの」

静かに。落ち着いた声で。

「それに…あまりこの土地に落ちてる物を無闇に拾うの、辞めた方が良いですよ」

チラッと布の隙間から覗く視線が、男の手の中を捉えた。
男はビクッと肩を震わし、焦ったように視線を泳がす。

「い、いや…。何か、気になってさぁ…もしかしたら値打ちもんかなって……」

真姫は小さくため息を吐き、男の拾った
「それ」をスっと抜き取る。

青く澄んだ、この場所には似つかわしくないほど綺麗な|珠《たま》。確かに、値打ちはありそうだが……。

ーー何故か、引っかかる。気になって仕方が無い。

「…これは私が預かります。どういった物か、ちゃんと調べないと…」

「…っち」

舌打ち。

男達は立ち上がり、苛立ちを隠そうともせず、その場を立ち去る。

「……良いよな。最初から全部持ってる天才は」

わざと聞こえる様な声で、呟かれる言葉。

ジクリ…と、
軋んだ骨の痛みが増した気がした。
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行事は何とか終わり、真姫は帰路に着いた。

バサッ。と重たい正装を脱ぎ捨て、
姿見の前で、瘴気の影響で出来た身体中の痣をひとつひとつ確認する。

真姫はふと、男が拾った青い珠の存在を思い出し、そっと部屋着のポケットに忍ばせる。

「…お嬢様。あまりご無理をなさらない方が…。それに、今はお受験も控えておられますし…」
着替えの手伝いをしていた使用人が心配そうに声を掛ける。

真姫は目を伏せながらも、首を横に振る。

「…いいの。あれはあれで…私の修行みたいなものだし」

「ですが……」

言い淀む使用人を横目に、
真姫は素早く着替え終わり、使用人に優しく微笑みかける。

「気にしないで。私は何も…気にしてないから……」
ーーーー

自室に戻った真姫はそのままドサッ、とベッドに倒れ込んだ。
疲労感。倦怠感。体はボロボロ…。
正装を着用せねば、人間である真姫にとって瘴気は耐えられない。

ーー途端に、グルグルと思考が蠢く。

『良いよな。最初から全部持ってる天才は』

蘇る言葉。
ジクジクと身体中が痛む。
倒れ込んだあの男達の傷は、治っていた。
瘴気による痣も、出来てはいなかった。

「…。」

「……別に…」
「私だって……」
「好きで|七ノ城《にんげん》に産まれた訳じゃ……」

慣れたはずの、いやーー
《《慣れようとしたはずの》》視線。言葉。
更には進学への不安。
それらが一気に押し寄せ、胸の奥が重くなる。

ーー普通に生きてみたい。
もし世界が、純血だらけなら。
……もし自分が、七ノ城に産まれていなければ……。

次第にうつらうつらとし始め、意識が薄れていく。

「……寮生活って……どんなだろ…」
「徹のやつ…ちゃんと進学できるかな……」
「あいつ…バカだしなぁ……」

朦朧とする思考の中、徹の姿を思い浮かべた。ほんの少しだけ、頬が緩む。

眠気に支配されそうになる。思考が途切れ途切れになり始める。

「少しだけ…休憩したら……また…」

…そのまま真姫は、意識を手放した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌朝。

窓から朝日が降り注ぐ。
鳥が朝を告げるように一斉に鳴き始める。

「……ん…んんーー!…寝ちゃってた…」

伸びをして、ゴロンと寝返りを打つ。

ふと、布団に違和感が。
何かいる……?

「……?」

布団をめくると……


ーー白い髪と、白い耳。
ーー2本の白いしっぽ。
丸まって眠る、見知らぬ青年。



「……………………は???????」



一瞬思考が停止する。

もう一度布団をめくってみる。

やっぱりいる。

「え?なに??誰これ???」

完全にパニック状態の真姫。


ーーその時、青年は目を覚ました。

「……ん」

パチリと目を開く。

「……ここ、は……」
戸惑った様な声が、小さく呟かれた。
青く澄んだ瞳が、キョロキョロと辺りを見渡した。

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