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詩織がトウヤに聞いてみた②


「はい、始まりました!」
「またやるのか」

「『詩織がトウヤさんに聞いてみた』、第2回です!」

「前回、不定期って言ってなかったか?」
「不定期なので、次が早いこともあります」
「便利な言葉だな」
「なお、この企画では、カクヨム掲載されている話までの内容を中心に扱います」
「中心に?」
「ほんの少しだけ、今後を匂わせることがあるかもしれません」
「最初からネタバレ防止設計が緩くなってないか?」
「大丈夫です。私が怒られない範囲にします」
「基準がお前なのかよ」

「それでは、今回の質問です!」

 詩織は手元の紙へ目を落とした。

「61話で、結奈さんがトウヤさんへ、ダンジョンは何のために存在しているのかを尋ねています」

「ああ」
「そこでトウヤさんは、ダンジョンが魔素を地上へ緩やかに広げるための装置であると説明しました」
「したな」
「そして、魔族についてこう言っています」

 詩織は一呼吸置き、問題の一文を読み上げた。

「『いるぞ。めちゃくちゃ強い』」
「分かりやすいだろ」

「まっっったく分かりません」
「強いって言ってるじゃねえか」

「“めちゃくちゃ”には個人差があります。テストで九十点を取った人がめちゃくちゃ頭がいいと言われることもあれば、人類史に名を残す天才を指すこともあります」
「面倒くせえな」

「魔族は、どちらですか?」
「人類史に名を残す方」

「……聞き方を間違えた気がします」
「もう遅いな」

「では、私にも分かるように説明してください」
「そうだな」

 トウヤは少し考えたあと、詩織を見た。

「……動物にたとえるか」
「急に分かりやすそうになりました」

「かなり大雑把なたとえだからな。個体差もあるし、相性もある。どこで戦うかでも変わる」
「承知しました」

「まず、最上位クラスの魔族がシャチだ」
「シャチ?」

 詩織は瞬きをした。

「思っていたより、現実にいる動物ですね」
「たとえだからな」

「確かに強いとは思います。でも、人類全体で考えれば、どうにかなるのではないでしょうか」
「どうにかなると思うか?」

「シャチ一頭に対して、人間なら船や航空機があります。軍艦やミサイルまで含めれば――」
「お前、今、人間を人間の位置に置いて考えただろ」

「私は人間ですから」
「このたとえの中じゃ違う」

「……嫌な予感がしてきました」
「まず、俺が……そうだな、ニワトリだ」

「ニワトリ」
「そうだ」

「トウヤさんが?」
「何か文句あるか」

「いえ。ただ、ずいぶん親しみやすくなったなと」
「褒めてないだろ」

「でもトウヤさんは、普通の探索者よりずっと強いですよね」
「ニワトリだって虫には強い。小さいヘビくらいなら殺すこともある。自分の小屋なら地の利もある」

「ダンジョンが鶏小屋なんですか?」
「その言い方はやめろ」

「ご自分でニワトリと言ったのに」
「強さのたとえだ。俺は人間から見れば十分強い。ダンジョンの中なら、罠も配下も地形も使える。だが、魔族側から見れば上位の捕食者じゃない」

「では、下級魔族は?」
「イヌ」

「下級で、もうイヌなんですか?」
「ニワトリより強いだろ」

「種類によっては、ニワトリが追い払えるのでは?」
「そういう個体もいる。だから大雑把なたとえだと言っただろ。だが、基本的にはイヌの方が上だ」

「では、中級魔族は?」
「トラ」

「急に上がりすぎでは?」
「俺に言うな」

「ニワトリ、イヌ、トラと来て、最上位がシャチ」
「そういうことだ」

 詩織は紙へ書き込みながら、しばらく考えた。

「つまり、トウヤさんは人間から見れば強者ですが、魔族側の基準ではニワトリ」
「そうだ」

「下級魔族にも、基本的には負ける」
「正面からならな」

「中級魔族には?」
「まず勝てない」

「最上位魔族には?」
「戦いにならん」

「……ニワトリとシャチですものね」
「ようやく分かってきたな」

「分かりたくなかったです」

 詩織は一度、紙から顔を上げた。

「では、人間側はどうなるのでしょうか。たとえば、暦さんやエリカさん、八雲さんくらいの探索者なら」
「その辺りはヘビだ」

「ヘビ」
「勇者級、あるいはそこへ届きうる人間だな」

「お姉ちゃんは?」
「同じところに入れていい。ヘビにも色々いるけどな」

「色々?」
「小さいヘビなら、ニワトリに食われることもある。だが、デカいニシキヘビやアナコンダなら、ニワトリじゃどうにもならない。トラだって無傷では済まないかもしれない」

「勇者級の中でも、かなり差があるんですね」
「人間を一括りにできないのと同じだ。暦やエリカみたいな奴が、全員同じ強さなわけじゃない」

「怪物級まで成長すれば、中級魔族にも勝てる可能性がある」
「可能性はな」

「最上位魔族には?」
「厳しい」

「アナコンダでも、海の中でシャチとは戦えませんものね」
「そういうことだ」

「では、一般的な探索者は?」
「ハチ」

「ミツバチですか?」
「ミツバチからスズメバチ寄りだな」

「少し強くなりました」
「単体でも危険だ。刺されればイヌでも痛い。数が揃えば、もっと大きな相手にも無視できない被害を出せる」

「でも、正面からイヌやトラへ勝てるわけではない」
「普通はな」

「では、一般人は?」
「ダンゴムシ」

「…………」
「どうした?」

「もう少し何かありませんでしたか?」
「何が」

「せめて、カブトムシとか」
「ダンゴムシ」

「二回言わなくていいです」
「地上の日常生活じゃ普通に生きられる。だが、ダンジョンや魔族相手には、ほとんど何もできない」

「私もですか?」
「基本的にはな」

「病弱なダンゴムシ……」
「自分で言って落ち込むなよ」

「今の私は、少しだけダンジョンへ馴染み始めています」
「その話は、また別の回だ」

「今、次回の題材を自然に作りましたね」
「作ってねえよ」

 詩織は書き込んだ内容を、改めて上から読み返した。

「一般人がダンゴムシ。一般的な探索者がハチ。人類最上位の探索者がヘビ。トウヤさんがニワトリ。下級魔族がイヌ。中級魔族がトラ。そして最上位魔族がシャチ」
「大体そんな感じだ」

「人類側、ほとんど虫ではありませんか」
「そうだな」

「人類最強クラスまで行って、ようやくヘビ」
「そうだな」

「そのヘビでも、最上位魔族には届かない」
「そうだな」

「トウヤさんは、どうして最初にシャチから説明したんですか?」
「お前が最上位の強さを聞いたからだろ」

「最初にシャチと聞いた時は、少し安心してしまいました」
「人間を人間のまま考えたからな」

「まさか、その後で人間側がダンゴムシまで下がるとは思いませんでした」
「順番に聞いたのはお前だぞ」

「もっと心の準備をさせてください」
「知ったところで何も変わらん」

「61話でも、同じようなことを結奈さんへ言っていましたね」
「事実だからな」

「ですが、最上位魔族がシャチなら、海から出てこられないのでは?」
「ああ」

 トウヤはあっさりと頷いた。

「最上位の魔族は、基本的に自分の領域から出てこない」
「それなら、少し安心です」
「また安心するのか?」

「シャチが陸へ上がれないのなら、ダンゴムシでも陸にいれば安全です」
「向こうから出てこない限りはな」

「やはり、そうですよね」
「でも、戦うならお前らが海へ入ることになるぞ」

 詩織の笑顔が止まった。

「……どうしてですか?」
「シャチの方から、わざわざ陸へ来てくれる理由がないからだ」

「こちらが戦いに行かなければならない」
「倒す必要が出たならな。あるいは、向こうの領域で何かを止める必要ができた時だ」

「その海というのは」
「高濃度の魔素に満ちた魔界側の領域。最上位魔族が本来の力を出せる場所だ」

「人間にとっては、入るだけでも危険」
「ダンジョンの深層ですら、人間には重いだろ。その先だ」

「でも、人類には兵器があります」
「その兵器も含めて、ダンゴムシやハチ側の戦力だ」

「船や潜水艦を使えば」
「比喩の中へ、人間用の乗り物をそのまま持ち込むな。そもそも、向こうの海まで運べるのか?」

「……難しいと思います」
「動かせるのか?」

「分かりません」
「魔素の中で、地上と同じ性能を出せるのか?」

「分かりません」
「相手は、その環境で生まれて、その環境で生きて、その環境を使って戦う」

 詩織は答えられなかった。
 トウヤは、気のない調子のまま続ける。

「ダンゴムシやハチが、海の中へ入ってシャチと戦う。どうやって勝つ?」
「……勝てません」

「そういうことだ」
「絶望的ですね」

「だから、向こうも地上へ出てこないし、人間も向こうへ行かない。それで今は成り立ってる」
「お互いに活動できる領域が違うから、直接衝突していない」

「そうだ。強いから何でもできるわけじゃない。シャチは海では強い。だが、陸へ上がれば動けない」
「逆に、人間も地上では社会や技術を築けますが、魔界側では本来の力を出せない」

「人間側が、どこまで向こうへ適応するかにもよるけどな」
「それは今後のお話ですか?」

「さあな」
「ネタバレ防止設計が働きました」

「面倒だから答えてないだけだ」
「最上位魔族よりも、さらに強い存在はいるのでしょうか」
「知らん」

「いない、ではなく?」
「魔界の全部を見たわけじゃない。俺が最上位だと思ってる連中より上が、絶対にいないとは言えない」

「シャチより上ですか」
「海の全部を調べたわけでもないのに、シャチが絶対の頂点だと断言できるか?」

「できません」
「それと同じだ」

「安心できる要素を、一つずつ丁寧に壊していきますね」
「聞かれたから答えてるだけなんだが」

 詩織は、手元の紙を静かに閉じた。

「今回の結論です」
「おう」

「トウヤさんが61話で言った『めちゃくちゃ強い』は、説明不足ではありましたが、誇張ではありませんでした」
「最初からそう言ってるだろ」

「詳しく説明された結果、聞く前より不安になりました」
「知識が増えたな」

「ダンゴムシにも知識は必要です」
「前向きなのか後ろ向きなのか分からんな」

「ですが、人類には可能性があります」
「ほう」

「ダンゴムシも、長い年月をかければ進化するかもしれません!」
「ダンゴムシはダンゴムシだろ」

「そこで否定しないでください!」
「ハチやヘビになる奴はいるって説明しただろ」
「では、人類の戦いはこれからですね!」

「打ち切りみたいに締めるな」
「それでは皆さん、チャンネル登録と高評価をお願いします!」

「チャンネルはないって前回も言っただろ」
「前回のお約束を忘れていないか確認しました」
「確認する必要あるか?」

「カクヨムの作品フォローと★評価、応援コメントは実在します!」
「急に現実へ戻ったな」

「ダンゴムシには、皆さんの応援が必要なんです!」
「自分でダンゴムシって言うのに慣れてきてないか?」

「それでは、次回もお楽しみに!」
「次回は?」
「未定です!」
「そこだけは前回と同じなんだな」

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