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「バールのようなもの」とは何なのか?

この「バールのようなもの」、今ではほとんどネットミームみたいな扱いになっていますが、「そもそもこれって何?」と前から思ってました。

今年の春先になって、元になった清水義範の単行本をたまたま古本屋で安く見つけたので、いい機会だと思って調べました。

この作品、ネタだけは有名なのに原作のオチはあまり知られていないような気がします。Kindleでも電子化されていないため、原文を読もうと思うと古本などを探す必要がありますが、二千円前後と結構いいお値段です。(2026年8月ごろの時点で)

そのうえネットで調べると、清水義範の小説、志の輔の落語、ニュースの言い回し、ネットミームがかなり混ざっており、混とんとしています。

そこで今回は、原作のオチと解析を含めて「バールのようなもの」のまとめに踏み切ってみました。

※ここから先はネタバレになりますので、注意してください。

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清水義範版「バールのようなもの」
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話の始まりは非常に単純で、主人公の男がニュースを見ていて、「バールのようなもの」という言葉を耳にします。

普通なら「まあ、バールか似たような工具なんだろうな」で終わるところですが、この主人公は妙なところが気になります。わざわざ「バールのようなもの」と言っている以上、バールではないはずで、それなら世の中にはバールによく似ているけれどバールではない、謎の道具が存在するのではないか、と考え始めます。

主人公はとうとう金物屋へ行って「バールのようなものはありますか」と聞き、結局は普通のバールを買って帰りますが、必要だったわけではないので物置にしまってしまいます。

ところが後日、事故によってそのバールが大きく曲がってしまい、ある夜、主人公はそれを持って外出したところを警察官に職務質問されます。

そこで主人公は、自分が持っているものが元はバールでありながら、今では普通のバールとは言いにくい形になっていることに気づきます。つまり、これこそがずっと探していた「バールのようなもの」だったわけです。

しかも主人公の中では、「バールのようなもの」はニュースで犯罪に使われる怪しい道具というイメージがすっかり出来上がっているため、何もしていないのに勝手に焦って挙動不審になってしまう、というところで話は終わります。

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投稿者の独断と偏見による解析
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一見すると荒唐無稽な話に思えますが、構造的には非常に高度です。

最初にあるのは「バールのようなもの」という言葉だけで、主人公は「○○のようなもの」という日本語には、○○そのものではなく似た別の何かを指す意味があると考え、「バールのようなもの」もバールとは別に存在するはずだと勝手に理屈を組み立てます。

やがて本物のバールを買い、それが事故で大きく曲がった結果、普通のバールとは言いにくい「バールのようなもの」が偶然出来上がります。さらに、それを持って歩いたところを警察官に呼び止められたことで、主人公が最初に作り上げた「犯罪に関係する怪しい道具」というイメージまで現実と重なってしまいます。

この一連の流れで重要なのは、主人公以外の人物は至って普通に社会活動をしているという点だと思います。金物屋も警察官も特におかしなことはしておらず、主人公だけが疑念や知的好奇心から独自の理屈に囚われ、それを追い続けています。

ちなみに、本来ニュースで「バールのようなもの」と言う理由はそれほど難しいものではありません。実物が見つかっていなければ「バールだった」と断定できないため、そのように表現しているだけです。しかし主人公は、こうした報道上の慎重な言い回しを日本語一般の問題として受け取り、さらに妄想を深めていきます。

結果として、最初は主人公の頭の中にしかなかった「バールそっくりだけどバールではない何か」が、偶然とはいえ現実に現れます。言葉を現実に合わせるのではなく、最後には現実の方が主人公の思い込みに追いついてしまうわけで、この構造は喜劇でありながら、少し怪奇にも近いものがあるように思えます。

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「奥さんに殴られる話」は落語版
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ここがややこしいところですが、「バールのようなものって、最後に奥さんに殴られる話じゃなかった?」と思った人もいるかもしれません。けど、それは立川志の輔の落語版です。

落語版では、「○○のようなもの」と言えば○○そのものではない、というでたらめな理屈が広がっていき、女性関係を問い詰められた人物が「あれは妾じゃない、妾のようなものだ」と言い訳しますが、もちろん奥さんには通じません。

結局、何かで殴られてしまい、「何で殴られたんだ」と聞かれたところで「バールのようなもの」と落ちる、という構成です。

なので、清水版と志の輔版はかなり違います。清水版は「本当にバールのようなものが出来てしまう話」で、落語版は「○○のようなもの」という日本語そのものを使った言葉遊びですが、最初に出てきた言葉が最後に主人公へ返ってくるという点では共通しています。

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そしてネットミームへ
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今では、バールだけでなく「人間のようなもの」「料理のようなもの」「兵器のようなもの」など、何にでも「○○のようなもの」を付ける使い方が広まりました。

特に有名なのが「名状しがたいバールのようなもの」です。クトゥルフ系で使われる「名状しがたいもの」と合体したネタで、美少女化したニャルラトホテプが所持していたなどでも有名になりました。

ただし、これを「報道用語→清水義範の小説→立川志の輔の落語→ネットミーム」という一本の流れとして考えるのは少し単純すぎるでしょう。

もともと「バールのようなもの」という報道表現そのものにかなり強いネタ要素があり、清水義範はそれを小説として膨らませ、志の輔は落語として別方向に料理し、ネット上でも独自に拡張されていった、と考えるくらいが自然だと思います。

小説、落語、ニュース、ネットミームが混ざり合った結果、「バールのようなもの」という作品自体まで、聞いたことはあるけれど正体がいまいち分からない存在になってしまいました。

そう考えると、それもまた妙に「バールのようなもの」らしい話なのかもしれません。

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8月8日正午より、新連載を開始します。タイトルは「鑑定あたわぬもの」です。

「神格鑑定局」の設定を用いたコズミックホラーとなっています。

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全10話の予定で、これまで通り、土日祝は正午、平日は18時に毎日更新いたします。文体や雰囲気にH.P.ラヴクラフトを意識しています。読みにくい箇所もあるかと思いますが、気が向いたときにでも、目を通していただければ幸いです。

※画像は生成AIによるものです。

2件のコメント

  • そういう元ネタがあるのですね~。
    勉強になります!

    てっきり鶴首バールや鉄道バール、平バール。
    インテリアバールといったバールの仲間から、
    金テコ、釘抜き、カジヤ、三徳釘締めといった似た形のもの。
    ただの金属棒から鉄パイプまで、
    そういった類のものをひっくるめて
    「バールのようなもの」だと思っていました。
  • Ashさんへ

    コメントありがとうございます。

    一口にバールといっても、そんなに種類があるとは……w

    考えてみれば、こうした道具そのものの種類の多さや境界の曖昧さも、「バールのようなもの」の正体を迷走させる原因の一つなのかもしれませんね。
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