最後の異世界転生譚 ――Echoes Beyond the Aurora Manuscript――
https://kakuyomu.jp/works/1681862217100678216262話 切り分けた双子
スークレイ女伯が邸の指揮を握って数日、戦況は悪化の兆しを見せていた。
哨戒の鏑矢がトガの接近を告げる中、アーミラは迎撃に挑む。
スークレイの無関心な態度をもろともせず、神器・天球儀の杖で空に光の矢を放ち、空から槍の雨をトガに降らせる。その攻撃は味方を巻き込むことなく精密に着弾し、スークレイすら言葉を失う圧巻の戦果だった。
前話でどん底に落ちたアーミラが 立ち上がる回。心を折られてからの心境の変化と再起が描かれています。
63話 先代の手記
アーミラとウツロの静かな会話から、スークレイとガントールが「切り分けられた双子」であることが明かされる。
両腕が繋がって生まれ、産後に切断された姉妹。その左右の義手はそれぞれの身体の痕跡であり、天秤の運命の象徴でもあった。
アーミラは自身の部屋を整えた成果をウツロに披露し、『先代の手記』を見つけたと語る。
「私もこの方のように、強くなります」
その誓いを果たすように、南方の戦場では青空を貫く光の矢が奔る――。
この話は前話と時系列が前後しています。
まずアーミラの決意、結果を見せる→決意に至るまでの経緯を振り返る→回想後、結果を見せた現在に戻る。
それとは別にガントールとスークレイのキャラクターをアーミラ越しに描いています。
64話 親を殺した相手に飯盛りをやらなきゃならないなんて
戦果を上げ続けるアーミラのもと、スペルアベル平原は防衛をほぼ完全なものにし、討伐隊の体制も刷新された。
合理的な采配の裏で戦力外通告を受けたウツロとイクス。夜の屋根の上、声を失った者と声の通じない者が、静かに意思を交わす。
ウツロとイクス、どちらも声に不自由があり、どことなくキャラが似ています。意図としては、特徴に類似があることで、相性がいいという描写を省くことができるからです。信頼と疑念が渦巻くエピソードなので、何でもかんでも説明するとかえってややこしくなるので、行間を読ませる表現を多用しています。
65話 誰もお前になりすますことはできない
ウツロは「なぜここにいるのか」と問う。
イクスは「恨みのため」と語り始める。
かつて彼は討伐隊の隊長であり、トガに仲間を殺され、さらには部下の姿に化けたトガに翻弄されていた。恐怖と混乱のなかで敵を討ったが、味方殺しとして邸の信用を失い、現在の境遇に至ったという。
その話を翌朝、ウツロはアーミラに報告するが、アーミラは冷静にその信憑性を疑う。
男二人の情感たっぷりな夜描写のあとに、アーミラの冷静な否定。この展開で読者にも「何を信じたいか」を考えてもらおうと思いました。アーミラの冷たい態度を読んで、逆にイクスを信じたくなるもよし、ウツロの主観を危ぶむもよしです。語られるほどに真実は曖昧になる構成を目指しました。
66話 役立たず
ウツロはアーミラに叱責された直後にもかかわらず、イクスを信じる形で邸の外に連れ出す。
二人は街を抜け、南の国境へと歩く。かつて災禍の龍と戦った地。その巨大な防壁の前にたどり着いた二人は、付近の廃墟に拠点を構え、トガの出現を待ち伏せることに。
猜疑が渦巻く邸での場面が続いて息が詰まるので、場面展開。広い場所に移動します。それに合わせて心理的な距離感にも変化を与えました。
タイトルにもなっている「役立たず」はパンチのある言葉です。イクスを焚きつける挑発でもあり、自分に貼られたレッテルでもある、奇妙な仲間意識を感じさせて、アーミラと話す時とはまた違うウツロの人間らしさが垣間見えます。