「ねえ誠、何か気づかない?」
放課後の教室で、一花さんが両手を後ろに組んで俺の前に立った。
言われるまま、じっと顔を見る。
「……席替え、したか?」
「してない! 言っとくけど、気づくまで帰らないからね」
一花さんの後ろで、二葉さんと三桜さんも同じようにこちらを見ていた。
三人とも、髪を結んでいる。
「あー。髪か」
「早いよ! そこはもうちょっと悩むとこでしょ!」
「三十分かけたのに、と言いたいのね」
二葉さんが淡々と補足した。
どうやら、二人ぶんとも一花さんが結ったらしい。
「二葉さんのは、なんか編んであるな」
二葉さんの視線が、ほんの少しだけ逸れた。
「……そこは、自分で足したの」
「計画に私情が混ざってるじゃん」
「崩れにくさを優先しただけよ。他意はないわ」
絶対に違う。
三桜さんのほうは、肩までの髪をちょこんと小さく結んであった。
「ごめんね、誠くん……わたしのは短いから。これだけしか結べなくて……」
「似合ってると思うけど」
三桜さんが固まった。
耳まできれいに赤くなっていく。
「ちょっと。あたしには?」
「一花さんはいつも巻いてるだろ」
「そこじゃない! いつもより可愛いね、くらい言えないの!?」
「センパイ、私も参加しましたよ!」
篠崎が駆け込んできて、頭をぐいと突き出した。
……どこも変わっていない。
「前髪、ピンで留めました」
「一本だけか」
「気持ちの問題です」
一花さんが、脱力した顔で天井を見上げた。
「三十分かけて、三十秒で終わるとは思わなかったなあ」
結局その日、四人とも下校まで髪をほどかなかった。
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