【ショートショート】かぐや姫のはなし――新しいしのぎを見つけやした!
阿波日向ホールディングス、本部事務所。
「親分! 新しいしのぎを見つけやした!」
若い衆が、古びた巻物を抱えて飛び込んできた。
「親分言うな! 社長や! ……で、今度は何を売るつもりや?」
「これですわ。古事記にある『かぐや姫のはなし』!」
「なんやそれ」
「夜間照明器具の取扱説明書です」
「……説明書?」
「へい。竹製の照明器具の構造、発光体の扱い方、点灯条件、保守点検。全部書いてあります」
「そんなん誰が買うねん」
「そこですわ!」
若い衆は巻物を机に広げ、竹の中に収められた発光体の図を指さした。
「この発光体を、かわいい女の子に擬人化するんです!」
「……は?」
「竹から美少女が生まれる。爺さんと婆さんが育てる。大きくなったら求婚者が押し寄せる。最後は月に帰る!」
「なんで照明器具が月に帰るんや!」
「メーカー回収を感動的な別れにするんですわ!」
「……」
「求婚者には無理難題を出して、話を盛り上げるんです。ほら、部品の調達や品質検査を冒険譚にして!」
「……なるほど?」
「題名は『竹取物語』! 美少女とお爺さんの感動物語! 絵師を雇って挿絵をつけて、同人誌として売り出すんですわ!」
社長は腕を組んだ。
「待て待て。それ、元の取扱説明書と全然違う話になっとるやないか」
「へい! 説明書をそのまま売っても誰も読みませんから!」
「それでええんか?」
「ええんです! 擬人化すれば売れるんです!」
若い衆は胸を張った。
「姫をかわいく描いて、月からのお迎えで泣かせる! 貴族の旦那衆にも受けますぜ!」
「……で、元の説明書は?」
「邪魔なんで省きます」
「おい!」
「大丈夫です! 何百年も経てば、こっちが本物の物語として伝わりますって!」
社長はしばらく黙り込んだ。
やがて、机をバンと叩く。
「……よし! 印刷部門を立ち上げろ!」
「へい!」
「題名は『竹取物語』やな?」
「へい! 大ヒット間違いなしです!」
「で、原作の取扱説明書はどうするんや?」
「誰も読まなくなりますわ!」
「なんでやねん!!」
ただの商店街の挨拶回りに行ったら、いきなり盃を交わされて若頭にされてしまった案件!
https://kakuyomu.jp/works/11054822666255990801