Ɉの箱を持ち上げると、思っていたより軽かった。中の活字は、他の字の箱に比べて明らかに数が少なかった。鋳造所は、字の使用頻度をあらかじめ見積もり、よく使う字には多くの活字を、稀にしか使わない字には少数だけを鋳る。この字は、鋳られた時点から、すでに少数派だった。一年のあいだ、拾っては組み、刷り終えれば分配棚に戻す、その繰り返しを、この少ない本数のまま続けてきたのだと、ダンザンは思った。増えることも、減ることもない数だった。それが今日、まとめて棚の外へ出されようとしていた。
倉庫を出る前に、ダンザンは足を止めた。箱の中の活字を、一本だけ取り出してみた。丸みを帯びた字形で、他のどの字とも似ていなかった。彼はそれを指先でつまみ、倉庫の小さな明かり取りの窓にかざした。去年の六月、初めて活字の箱を開けたときと同じ重さ、同じ冷たさがあった。あのときは、この字がどう読まれるのかも分からなかった。一年経ったいま、読み方が定まる前に、字そのものがなくなろうとしていた。
——これは、生まれなかった字と同じだ。
第4話 『一九三一年、除かれる字』
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