灯野 しずく

駅裏の古い自販機は、返却レバーでたった一分だけ時間を巻き戻せる。けれど主人公は、戻すよりも「置く」ことを学んでいく。印刷所の老職人、貼る係の春、窓口係、冴絵たちと出会い、謝罪や感…

脱水で命を落とした主人公が目を開けたのは、水鏡と畦が呼吸する冥府の隣町。祖たちの手ほどきで、露を移し、根の歌を聴き、雲絹を張り、畑の拍を整える術を覚えていく。輪の縁では香と天秤が…

市場、港、避難所、臨時列車、診療所――雑多な現場で小さな計器と所作を使い、速度ではなく間、量ではなく相で人を守る公証料理人。終章では原則をあえて反転し、方法の硬直を壊してから輪へ…

遺体に残った“借り物の記憶”を回収し、世界の背表紙へ返す――冥府併設の安置所「記憶返却カウンター」に配属された司書の仕事は、延滞の催促から禁帯出の摘発まで、静かな手順で成り立つ危…

古い団地に伝わる噂がある。夜の回覧板にだけ挟まる一枚の黒い地図。受け取った家は翌朝、玄関の鍵がすべて開いている。高校二年の浅野灯は、ある雨の夜、回覧板の中に本物の「黒地図」を見つ…

行方不明が続いた岬の保養所に、音を集める仕事人が一晩だけ機材を据える。鎖のきしみ、階段の拍、井戸のような沈み再生のたび現実のほうが歪み、港の赤灯は一拍遅れて点滅しはじめる。扉は動…