夏は特別な季節だ。とくに学生にとっての夏休みは思い出を作り、学校では得られない経験を得て成長する時期だ。しかし今年の夏は様々なイベントが中止になるそうだ。スポーツの大会や、音楽フェス、夏祭りに花火大会、海水浴のビーチや登山道、キャンプ場も一部閉鎖されるところもあるという。夏を目標にして一年間頑張ってきたという方はさぞかし無念なことだろう。そういう人々を物語の力で元気づけたい。そこで今回は「夏」と「恋」をテーマにした作品を選んでみました。イベントがなくなっても夏までが失われたわけじゃない。私たち、君たちの夏はこれからだ。夏休みに何をしようか。新しい気持ちで考えてみてはいかがだろうか。
「この町は8月を繰り返しているの」。クラスメイトの少女からそう告げられた男子高校生のヤカモト。非常識な事実を話す彼女の言葉をヤカモトは信じる。何故ならこの世界は、開発中のVR恋愛シミュレーションゲームで、彼はテストプレイヤーだったからだ。
ゲーム世界は8月1日から始まり、31日にすべてリセットされる。NPCでありながらループを認識した彼女は繰り返される8月を抜け出す研究を始める。街中を歩き回りプレイヤーに代わってゲーム内に用意されたシナリオを進め、さらにはバグまで見つけ出して無自覚に世界を壊しかける彼女の行動にハラハラします。
正しい世界を取り戻そうと努力する彼女だが、その本人こそが間違っている矛盾。数十回、数百回のループに閉じ込められて次第に奇行に走りはじめる彼女を見守るしかないヤカモトの姿にやりきれない無力感でいっぱいになりました。
そして彼女はヤカモトや開発陣の想定を超える存在へと進化する。衝撃の結末に言葉を失います。
(「あの娘と過ごした夏」4選/文=愛咲優詩)
実力不足から野球を断念した男子高校生の鈴木虎徹が、ひとりの少女のために弱小野球部で甲子園を目指す。夏の定番ともいえる高校野球をテーマにした王道スポ根青春物語です。
全校男子の憧れの才色兼備のお嬢様・坂井美雪が、実は野球ファンだと知った虎徹は、身体が弱く入退院を繰り返す彼女を元気づけるために甲子園に連れて行く約束をする。
進学校である常陽学院野球部は、部員も少なく実績もない弱小ですが、部員たちひとりひとりに野球に取り組む理由が描かれ、みな虎徹に負けず劣らずの熱血少年ばかりで好感が持てて応援したくなります。
そしてこの作品における秘密兵器が、天才投資家という肩書きを持つ女子高生・是川唯というキャラクターの存在です。彼女の天才的なデータ分析による戦略構築、そして潤沢な資金力とコネを駆使した練習環境によって魔改造されていく高校球児たちの急成長が痛快です。
猛特訓を乗り越えて迎えた夏の大会。いつも才能ある選手の後塵を拝してきた虎徹が、美雪への想いで才能を覆す! 弱小チームと強豪校との激闘が熱く盛り上がります!
(「あの娘と過ごした夏」4選/文=愛咲優詩)
いきつけの美容院で出会った女子高生ギャル、ふらっと立ち寄った喫茶店で惹かれた清楚な看板娘。どこにでもいる平凡な男子大学生の宮田が、ギャルと清楚の二人の美少女に翻弄されるひと夏のラブストーリーです。
勝ち気なギャルに見えて純心で家庭的なサキちゃん、清楚な淑女に見えてミステリアスで悪女な詩織さん。なし崩し的に二人と親しくなり、バーベキューやデートに夏祭り、お泊りと交流を重ねていくうちに見えてくる普段とは違う一面のギャップにドキリとさせられます。
正反対だがどちらも魅力的なヒロイン二人に好意を寄せられ、移り気で優柔不断な宮田が女の子に振り回される姿が滑稽です。
ただこれだけではよくあるラブコメですが、この物語のキーになるのが、記憶を売買する『記憶の停留所』という都市伝説。そして宮田に送りつけられる謎のメール。
夏の終りと共に明かされる、三角関係を根底から覆す驚愕のどんでん返しが必見です。
(「あの娘と過ごした夏」4選/文=愛咲優詩)