人気ジャンルとして定番の一つとなっている「お仕事もの」。さまざまな仕事をテーマに働く喜びや仕事の楽しみを書いており、読んでいて面白いばかりではなく意外な形で勉強になることも多い。しかしだ、皆冷静に考えてほしい。我々は本当に働きたいのか? いや、ここはあえて声を大にして言おう! 俺は働きたくない! もう仕事なんてやめて一日中ゴロゴロしてゲームやったり読書をしていたい! というわけで今回はそんな気持ちをおすそわけすべく、ブラック風味なお仕事もの特集。現実世界の作家のエッセイから異世界の看守や宿屋の主人、さらには宇宙を駆ける輸送業まで、辛く厳しいお仕事を扱った作品の目白押しだ。

ピックアップ

ブラック社会を生きる男は、ある決断を迫られる

  • ★★★ Excellent!!!

宇宙船に思わぬ乗客が紛れ込んだために、燃料や酸素が足りなくなりこのままでは航行不可能に。さて乗組員はこの密航者をどう扱うべきか?

こうしたシチュエーションを扱ったSF小説はトム・ゴドウィンの『冷たい方程式』になぞらえて「方程式もの」と呼ばれています。本作もそんな「方程式もの」の一つ。

とある運輸会社の運転士を勤める平山匡は、今日も今日とてワンオペで宇宙船に乗り組み遠い星から地球へと荷物を運ぶ。しかし、今回はいつもと違う出来事が。なんと若い女性の密航者が船内に忍び込んでいたのだ。

普通なら乗客が一人増えたぐらい何ともないはずなのだが、平山が勤める会社は超ブラック企業! 空気も燃料もギリギリだし、ついでに荷物の積載量は本来の制限である60%を超える110%! たった一人を追加する余裕すらないのだ!

この過酷な勤務形態が生んだ悲劇的状況を前に平山は、そして密航者はどのような決断を下すのか!?

古典SFで扱われた題材を現代社会の風刺と上手く結び付け、見事に今の時代にアップデートさせた本作品。「冷たい方程式」というフレーズに新たな解釈を加える、ショートショートならではの切れ味鋭いラストは必見!

(「もしかしてブラック!? お仕事が大変に思える作品」4選/文=柿崎 憲)

没落貴族が監獄で出会ったのは、囚人となった元勇者!

  • ★★★ Excellent!!!

異世界ファンタジーでは様々な職業が出てくるが、本作の主人公はその中でもかなり珍しい職業、なんと刑務所の看守に就いている。

元々は有力な貴族の庶子として生まれたバートン・ウルフ。だが、ある時父が政争に敗れ一家まとめて全員死刑に。唯一母方の姓を名乗っていた彼だけは見逃されるも、仕事も住むところもない。そんな中、伝手を使って見つけて看守となったのだ。

舞台となる監獄は、賄賂や女囚へのセクハラが当たり前という色んな意味でブラックな職場だが、彼には普通の仕事以外にももう一つの任務が与えられている。それはある事情でこの刑務所に入っている元勇者フユ・サガラの身の回りの世話!

没落貴族の青年と元勇者の少女の監獄でのボーイ・ミーツ・ガールという非常に風変りな本作品。二人の交流がメインではあるが、その一方で囚人から持ちかけられた様々な頼みの裏に事件の影を見つけ出したり、なぜフユは監獄に入っているのか、などのミステリー的な側面も備わっており、非常にエンタメ性が高い内容に仕上がっている。

(「もしかしてブラック!? お仕事が大変に思える作品」4選/文=柿崎 憲)

宿屋のオヤジVS注文の多い冒険者!

  • ★★★ Excellent!!!

海洋世界のダンジョン「アマンデイ」で宿屋の主人を務める主人公。

ダンジョン内の宿屋だけに宿泊客は冒険者ばかりで、いずれも劣らぬくせ者揃い。そんな冒険者相手に時にはクレーム対応に追われ、時には機転を利かせて無茶な注文を見事に切り抜けるというお仕事もののお手本のような作品。

やたらと食事の注文が細かい、夜中に隣の部屋から大きなあえぎ声が聞こえてくるといった現実世界でもありそうな問題から、素性を明かさぬ忍者や子供エルフの応対などファンタジー世界ならではのものまで、その内容は盛りだくさん。

一見、個性的な客ばかりが目立つように思えるが、読んでいると毎回客に振り回されつつもプロ意識をしっかり働かせて、満足して帰ってもらえるよう頑張る主人公に自然と愛着が湧いてくるし、彼の下で働く従業員も良い奴ばかりで読み終えるころにはこの作品世界が好きになること間違いなし。

異世界が舞台ということもあってか、過度なクレーマーが登場してもそこまで嫌な気分にもならないし、一話完結形式でサクサク読めるのもグッド。

(「もしかしてブラック!? お仕事が大変に思える作品」4選/文=柿崎 憲)