酷暑です! 実は書いてる今、ちょっと気温的には落ち着いているのですが、それでも暑いは暑い! 
そんなときはさくっと読める掌編や短編がよいのでは? ということで、今回は短い作品の特集をさせていただくことにしました。
短いだけに構成が難しくて、書き手さんには長編とはベクトルのちがう難しさがあるものと思いますが、ご自分のスタイルや筆力をはっきり示すことのできるおもしろさがあたったりもしますね。ですから読み手さんも、ぜひ作品検索欄の「短編」にチェックを入れてみてください。ごひいきさんが見つかりやすくなるかもですよー。
なんてこともありますが、ともあれ夜の寝苦しさを癒やしてくれる4作、お楽しみくださいませ。

ピックアップ

夏のひとコマ、一瞬の内に咲く万感

  • ★★★ Excellent!!!

ただ一文で語られる恋愛模様。説明もこれだけで終わっちゃうこの作品、感想は「趣深い」のひと言です。

ひねりも言葉遊びもなく、ただただ恋する誰かの心情や状況の“一瞬”を切り取ったこの一文が、すごく心を動かすんですよ。

ストレートな言葉づかいに詩的表現が絶妙に噛み合わさって演出されたワンカットには、そこへ至るまでの心情的な積み重ねもその後に続く情動的な展開もなくて、だからこそ純粋な一瞬として機能します。

たとえば本作から「夏、3」を取り上げてみますと、『僕は君が先輩のことを好きだと僕が気づいていないことに気づいたことに気がついた、夏祭り。』。なんだか思春期のめんどくさい男子の顔が見えてきたりしませんか? いや、もしかしたら一人称が僕の女子かもしれない、いやいや、実は実は……なんてふうに、想像をかき立てられるのですよね。

本当に短い中に叙情あふれる作品です。

(夏はサクサク! 短い4選!/文=髙橋 剛)

鋼に映る父の思い・父に映る子の思い

  • ★★★ Excellent!!!

包丁鍛冶の父とそれを店で売る子が言葉を交わす、ひとときを映したショートストーリー。
会話で表わされるのは刀ではなく包丁やハサミを打つお父さんの信条と、それを受けたお子さんの心情ですが……これで1477字ですか!? 濃密なんですよ、それはもう驚くほどに!

お子さんに刀を打たないのかと訊かれたお父さんの答には、読んでいるこちらの背中が伸びちゃうくらいの強い思いがあって、お父さんを誰より尊敬して、愛しているからこそのお子さんの思いがあって。正直、オチには震えましたね。

それは、これだけの文量にきっちり説明まで交えてドラマを成立させられる構成力があってこそ。著者さんは大阪の刃物屋さんで取材されたとのことですが、その成果がリアルの重みをしっかり作品に与えられているのもすばらしい!

読み手の方はもちろんですが、ぜひとも書き手の方に読んでいただきたいです!

(夏はサクサク! 短い4選!/文=髙橋 剛)

忘れえぬ思いが描き出すスパイシーな会話劇

  • ★★★ Excellent!!!

旅行帰りの主人公が、唐突に刑事から呼び止められる。
あなたがハワイに行っていた一週間の間に連続殺人事件が起こっている。あなたにはその被害者たちと共通する点がある……。

こちらのお話、基本的に会話劇です。最初は普通なのに、刑事から情報のピースが提示されるごとに不穏を帯びて、最後の最後で全部のピースがカチっと噛み合わさってひとつの悲劇を完成させる……そんなドラマチックな構成に加えて、作品へ含めた皮肉を引っぱって引っぱって、最後にガリっと噛ませるスパイシーな演出! 
さらにオチがタイトルと連動して、演出の辛さを倍増させるわけです。

総評でもないんですけど、これは会話劇だからこその手法ですよねぇ。地の文主体だと読者さんに与えちゃう情報が多くなりすぎて、うまく効いてこないですから。説明しない選択が正しくプラスに働いてます。

読後に引く辛みの余韻、あなたも味わってみませんか?

(夏はサクサク! 短い4選!/文=髙橋 剛)

戦に躙られる中国、その狭間を行く旅語り

  • ★★★ Excellent!!!

三国志の時代に続く五胡十六国時代の中国、そこを旅する漢人が見たものを綴るルポルタージュ風味の連作短編。

カクヨムの歴史・時代系は中国史をテーマにしたものも多いんですけど、あえて戦と戦の狭間にあった平和な時代を舞台に、当時の風物を取り上げていることに目を惹かれます。自分の知らない「毎日」が1800年も昔の中国で営まれてたんだーって、すごいロマンじゃないですか!

しかも中国は広い! いろいろな民族がいて、だからこそいろいろな出会いがあって……旅している主人公の目や心情を通して、私たち読者はなにより鮮やかで、実になんでもない4世紀の情景を味わうことができるんですよ。
言ってみれば、マーク・トウェインの旅行記みたいな滋味深さですよねぇ。

けして華やかじゃないけれど、地に足の着いたリアリティ。迷わずおすすめです!

(夏はサクサク! 短い4選!/文=髙橋 剛)