夏である。思えば小説には、季節感のある作品も無い作品もある。カクヨムでは連載形式で作品を投稿することがほとんどだから、それなりの規模の作品ならば、季節をまたいで連載されていることも少なくない。こういう時間感覚のズレはそれ自体がメディアの性質として興味深いものだが、即時、読書体験としての快適さに奉仕するかと言えば話はまた別である。たとえば『七里靴の配達員』は冒頭から吹雪うずまく北極を舞台にするわけだが(北極に季節も何もないかも知れないが)この時期にこういう描写を見ることは作品のフィクション性をよい意味で高めている気がするし、一方で7月を舞台とする『ライオンリリィのロボコンデイズ』にはほのかな暑気とともに時期的な臨場感が伝わってくる。小説の読書は、その場にいながら読者に旅行をさせてくれる体験ではあるのだが、一方で、読書体験というものが読者の身体感覚と不可分であることも改めて感じさせられた。
PC・スマホ時代になって、めっきり文房具にこだわる人も減った中、その雅なこだわりが実によく味わえる一編である。
単純によく知らない万年筆の世界について知識を深められることもさることながら、万年筆へのあふれる愛情を、まさに万年筆で書いたように端正かつつややかに綴られた文章の感じが、読んでいて実に気持ちいい。
まさにエッセイとはこういうものだ、と思わされる。
「メンテナンスを文章で語る意義は薄い。動画を参照するのが一番である」と言うほど、基本的には「機能的」な部分の紹介に終始しているはずなのに、その独特な味わい深さは、さながらよくできた紀行文を読んでいるかのよう。
「ペン先は深淵な万年筆の世界でも特に奥が深い。とにかく金でできた万年筆が持つ夢のような書き心地を堪能することなしに死んでしまうのは勿体ない」と言われれば、なるほどそういうものかと思わされる。
万年筆を持つだけでこういう気品をまとえるのなら安いものなのだが……。
もっとも、その「万年筆を持つ」ことが一筋縄で行かぬことを教えてくれるのも本作なのである。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=村上裕一)