祖父と二人、龍の墓守として暮らす主人公のイヲ。外の世界と距離を置いた海岸沿いの彼岸埜で、彼女は静かな日々を送っています。
最寄りの村では、同い年の娘たちがすでに子供を産み育てています。そんな周囲との隔たりを感じながらも、イヲは自分の役目を果たし、慎ましく生きていました。
ある日、海岸に一人の男が流れ着いたことから、彼女の運命は少しずつ動き始めます。
悪意や葛藤、優しさや思慕。登場人物たちはそれぞれの事情や弱さを抱えたまま動いていくため、異世界を舞台にしながらも、人間関係には生々しい現実感があります。
そこにダイド龍の伝承や過去の謎が絡み合い、物語は終盤に向けて大きく加速していきます。さまざまな感情が交錯しながら、少しずつ真相へ近づいていく展開に、強く心を揺さぶられました。
イヲは、時に迷い、揺らぎながらも、心の芯を失いません。困難に向き合い、自分の意志で進もうとする彼女の姿には励まされますし、幸せになってほしいと願わずにはいられません。
閉ざされた土地の伝承と、彼女の生き様が結びついていくこの物語。彼女の行く末をぜひ見届けて、そして是非、その先に思いを馳せてみてください。
読み終えたあと、改めてタイトルを見返すと、とても感慨深いものがあります。
毎話毎話くっきりと描かれるそれぞれの登場人物の描写がすごく好きです。
本当にこの物語のそれぞれのキャラの目線でリアルに体験してないと書けないんじゃないか、という細かい描写が魅力的で、それによりこちら側にも物語の詳細が手に取るように伝わってきます。
なんというか、リアリティーが凄くあるんですよね。色んなキャラが出てきて、それぞれの思惑もあって、思考が移り変わっていく様が見事だし、本当に面白いです。
文章も本当に綺麗で羨ましい……。佐子さんのような文才が欲しい……。いや、じゃなくて。
文章が綺麗でとても読みやすいです。美しいです!
それに加えて、15万字と読みやすいサイズだし、是非ともラストシーンまで読んで欲しい作品です。
因習ものが好き。身分差のある恋も好き。人の思惑が絡み合って、あとから見え方まで変わる物語はもっと好き。
そんな方に、ぜひ読んでいただきたい作品です。
因習という言葉が、これほど似合う物語はありません。
けれど、そこで受け継がれてきたものは、ただ古くて悪いものとしては描かれません。
閉ざされた土地で、墓守として生きてきた少女イヲ。
物語のはじまりは、とても素朴です。
外の世界をほとんど知らないイヲの日々と、土地に残る古い伝承。
けれど、彼女が外へ踏み出したことで、その小さかった世界は少しずつ広がっていきます。
私は、読み進めるうちに、それまで見えていたものが少し違って見えてくる物語が大好きです。
この作品には、そういう瞬間が随所にありました。
イヲの恋愛も好きです。
ただ好きだから一緒になればいい、とはいかない。
相手の立場を知ったからこそ踏み出せなくなることもあって、そのもどかしさも好きでした。
静かな土地の物語から始まって、いつの間にか恋も、人の欲も、家族の過去も、古い伝承も絡み合っていく。
読み終えたあとにも、この先を少し想像していたくなる余韻が残りました。
完結済みの作品です。
どうぞ一気にお読みください。
因習の地で、鳥はまだ知らない空を見上げる
旧大陸の秘地・彼岸埜。龍の墓所を守る家に生まれ、閉ざされた土地で孤独に暮らすイヲの運命は、傷だらけの謎多き男、沙郷との出会いから大きく動き始めます。
佐子八万季様の文章には、異国文学の翻訳作品を思わせる独特の間と余白があります。すべてを説明しきらない言葉の向こうから、ざらついた土の感触や潮を含んだ湿度、因習に覆われた土地の息苦しさまでもが伝わってくる。読み進めるうちに情景が鮮やかな映像となって立ち上がり、そこにいる人々の息遣いまで聞こえるようでした。
登場人物も、物語を動かすための記号ではありません。善意の中に無神経さがあり、愛情の傍らに欲や嫉妬がある。
強さと弱さをあわせ持つイヲをはじめ、誰もが割り切れない感情を抱えた一人の人間として生きています。その繊細な眼差しと、人の業を人間の大きさに収める筆致に、何度も心を揺さぶられました。
鳥は、どこへ飛ぶか決まったから自由になるのではない。飛ぶ先を自分で選べるようになったから、自由になる。まだ知らない空へ向かうイヲのこれからを、いつまでも想像していたくなる物語です。
この作品は、作者の佐子さんの真骨頂が詰まった作品です。
「ダイド洞は龍の墓所でもあった」
墓所を代々守り継ぐ家に生まれた娘、イヲは二人の美しい王子たちと出会い、運命を翻弄されていくのです。
恋と謎と宮廷劇。
愛憎渦巻く因縁の物語――複雑に絡み合う運命の行く末は?
続きが待ち遠しくて、更新されるや飛びついて読んでいます。
佐子さんは、私の憧れの作家さんです。
登場人物の心情描写がとにかく繊細なのです。
心細い人は心細いように、胸弾む恋は柔らかく初々しく。
泥のような執着も、一人で立つとき、骨身に染みる風も。
まるで絵画の描写のように手に取るようにわかります。
その視線は分け隔てなく、注がれています。
高貴で滑稽な人たちも、貧しくとも睦まじく暮らす人たちも。
試練や逆境に立ち向かう人たちも。
初めて佐子作品に触れたときの心中は、人生初めて宮部みゆきを読んだ時の驚きに似ています。
宝石を身に着ける王侯貴族や神でもなく、大げさに悲劇に打ちひしがれる英雄でもない。
等身大の、今日の命を紡ごうとしている人の、その生きざまの美しさを繊細に描き出す作家はやはり稀有なのだと。
カミナリに打たれたような気持ちでした。
あの日からずっとファンです。
まだまだ物語は続きそうです。
大切に読んでいきます。
隔絶された土地「彼岸埜(ひがんの)」で祖父母と暮らしてきた少女イヲの物語は、序盤から暮らし模様が丁寧に描かれていきます。
古い因習や貧しさに縛られる暮らしが緻密に浮き上がり、その描写は本当に物語の世界にいるかのような心地になりました。
そんな中、砂利浜で倒れていた謎の男「サザト」と触れ合うことで、物語は大きく動き始めます。
本作の魅力は、風景がとても丁寧に描かれていること。
読みながら、砂嵐や港の匂いが届いてくる。
育ちの影響もあり肯定感の低いイヲが、少しずつ変わっていく姿は胸を打つものがあります。
なにより素朴で誠実な姿が魅力的で、つい応援したい気持ちになる。
高貴な雰囲気のサザトとの対比によるイヲの心理描写も繊細で、さらにこの出逢いが新たな展開を予感させる。
まだ拝読している途中ではありますが、先行きがとても気になります。
静かさの中に謎があり、伝承やロマンスの香りもする深みのある物語を、ぜひ手にとってみてください。