第41話 欺瞞の聖母


 炎上する禁忌の樹海。

 大樹都市『蓬莱』は混乱の最中にあった。


 ――外敵の侵入。


 結界に長く守られていた『蓬莱』の結界が消えた今、都市の入り口となる禁忌の樹海では激しい争いが繰り広げられているようだった。


 「玄武隊と青龍隊はミハイ様の下に!」

 「白虎隊はヨルカ様に!」「朱雀隊は都市の防衛だ!急げ!」「三方面同時だと!?」「救援は!?」


 都市のあちこちに指示や怒号が飛び交う。

 凄惨な死体や重症者が次々と都市に運び込まれている様子は、戦況の不利を物語っていた。


 エギル達は何の咎めも無く神殿へと進む。



 ――都市中央の神殿



 そこには非戦闘員の信徒達が避難していた。

 女、子供、老人達の姿

 そして中には貴族の亡命者や指名手配されている者と見られる姿もあった。



 そして誰もが祭壇に立つ少女に救いを求めていた。


「御柱様!」「巫女様!」「お救いください!」

「フィルテリア様!」「新しい女神様!」


 フィルテリアはそこに居た。


 その後ろに立つクリムテリアが信徒達に応える。


「蓬莱に集いし信徒達よ! 案ずるが良い。妾の娘。巫女フィルテリアが新しき柱として女神として其方達を守るでしょう!」


 ――信徒達は歓声をあげる。


 クリムテリアは若き巫女フィルテリアの頬を撫でながら言った。


「妾の可愛いフィルテリア.....教えた通りにやれば良い。この七日間で開花の慣らしは済んでおる」


 フィルテリアと呼ばれた少女は笑顔で答える。


「はい、お母さん。私やってみる!」



 ――その時。



 信徒達が騒然とする。



「貴様ら! 何者だ!?」「御柱様に近付く事は許さん!」


 現れた大剣を背負う剣士は短く答えた。



「.....退け。さもなくば.....押し通る」



 ――次々と倒される兵達。


 守備兵達を蹴散らした剣士が祭壇の階段下に姿を現した。


 剣士は祭壇に立つ少女と目が合うと叫んだ。



「フィルテリア! 俺だ。エギルだ! 迎えに来た」



 フィルテリアと呼ばれた少女は怪訝な顔で答える。


「何者ですか? 母クリムテリア様の御前です。控えなさい」


 ――その答え

 ――その姿はもう

 フィルテリアの面影だけが残る、別人のような彼女だった。


 エギルはクリムテリアを睨みつける。


 そこに、先程蹴散らされた守備兵達がエギル達を包囲した。


 エギルは脈打ち血が滲む腕で大剣に手をかける。

 その目は絶対に引かないという意志の強さが見て取れる。



「――よいのです。下がりなさい」



 クリムテリアは守備兵達を制し下がらせた。

 そして祭壇の段上からエギルを見下ろしながら言った。


「.....ほぅ。護人殿か。我が娘フィルテリアを守りに来たか.....殊勝よの」


 ヤンがエギルに小さく囁く。


「.....あの子は洗脳されています.....間違いなく」


 エギルの顔から色が消えた。

 大剣を握る圧が殺気と共に跳ね上がる。


「.....お前、ロレンツォと同じ化け物なんだろ? .....くくっ.....殺し放題だな.....気が狂うまで.....壊し続けてやる」


 エギルは修羅の如く形相で大剣を構える。




 ――その時。




 木々や無数の植物がエギル達に襲いかかる。




 ――ッ!




 フィルテリアの掲げる手には聖槍があった。

 その聖槍は木々を使役し、次々とエギル達に攻撃を繰り出す。


「フィルテリア! 目を覚ませ!」


「黙れ! お母さんに近寄るなッ!!」



 その様子を満足気に見つめていたクリムテリアが仲裁する。


「護人殿よ。今は外敵を排除する方が先決では? 奴等の狙いは妾とフィルテリアぞ? .....ん?」




 その時だった。




 クリムテリアは小さく呟いた。




「.....来たか」




 激しい破壊轟音


 神殿の城壁が完全に破壊された。


 一瞬で肉塊となった守備兵達の死体


 血の匂いが充満し、信徒達の悲鳴があがる。



 ――絶望の襲来



 そこには異形の兵団の姿があった。


 あの、アンジェロの様な人の理を外れた"元人間"


 3メートルを超える人外の化身が2体。


 その異形の手には、既に首だけとなったミハイと瀕死のヨルカの姿があった。




 ――誰もが凍りついた。




 異形達が道を開けると

 ゆっくりと二人の男が現れる。




 仮面の男




 あのヴェネツ・オーロでアンジェロと共に居た聖教会の男の姿




 そして、もう一人




 趣味の悪い香水の匂いが漂う。




 背の低い香水の男の片腕は欠損し既に無い

 足も義足なのか、引きずる様に歩く

 そして、顔もズタズタに斬り裂かれていた。




 唖然とするメリッサの口からタバコが落ちる。




 満身創痍の香水の男がニヤリと笑い口を開く




「あぁぁぁ兄キぃぃぃィィい♡」




 エギルは鼻で笑い、男の名前を口にする。





「.....はっ.....随分と見れる顔になったな.....マルコ」




 つづく

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