氷の元幹部とあたたかい食堂

わしお

第1話 食堂名物『ゆきだるま』

 大陸の中ほどにある小さな町、ロジュルム。かつて魔王討伐に向かう冒険者で溢れていたこの町は、争いが終わった今、衰退の一途を辿っていた。

 そんな町の中で、大衆食堂『雪だるま』は、全盛期に劣らない賑わいを見せていた。

 客の多くは子連れだ。その理由は、この店の看板メニューにある。


 店主であるアメリアは、木の盆に例の看板メニューを乗せて早足でテーブルに向かう。

 アメリアは待ちきれない様子の子供客に、溌剌はつらつとした笑顔を向けた。


「お待たせしました!当店名物『ゆきだるま』です!」


 子供の前に置かれたのは、その名の通り雪だるまのような形をした氷菓子だ。白くて丸い玉が二つ重なり、上の玉にははちみつ漬けにしたあんずが、鼻のように可愛らしく刺さっている。下の玉には棒状のビスケットが左右一本ずつ刺さり、まるで手を振っているようだった。

 子供は目を輝かせ、待ちきれずに構えていた木のスプーンをゆきだるまに刺した。

 子供は大きな口をあけ、ゆきだるまを口いっぱいに放り込む。冷たそうに目をつむりながらも、子供は満面の笑みを浮かべた。


「おいしい!」


 そう言った子供の笑顔に、アメリアは大きな喜びを覚える。作った料理を喜んでもらえるのは、何年食堂を営んでいても嬉しいものだ。


 ふと窓の外を見ると、既に日が傾き始めている。先ほど営業を始めた気がするのに、時間が経つのは早いものだ。

 こんなにも客足が伸びるなど、数か月前のアメリアは思いもしなかった。これも全て、看板メニューを考案してくれたのおかげである。


 その後も忙しく働き、あっという間に閉店の時間になる。最後の客の会計を済ませ、アメリアは満面の笑みで客を見送った。


「ありがとうございました!」


 そう言うと、客の子供は親に手を引かれながら、アメリアに大きく手を振った。アメリアも親子が見えなくなるまで、手を振り返し続けた。

 扉の外にかけている「営業中」の札を裏返し、アメリアはゆっくりと扉を閉める。静かになった店内を見渡し、アメリアは大きく息を吐いた。

 小さな店とはいえ、一人で配膳と会計、時に調理を手伝うのは大変だ。好きでやっていることであっても、疲労は溜まるものである。


「はぁ……。つっかれたー……」


 アメリアは先ほどまで客がいた店のテーブルに、腕を伸ばして突っ伏した。

 そのとき、アメリアを覆うように影が落ちる。顔を上に向けると、帽子を被った小柄な青年が柔らかい笑みをアメリアに向けていた。

 帽子からはみ出た、青年の柔らかく巻いた銀髪がふわりと揺れる。青年の両手には、先ほどまで客に出していたゆきだるまが乗っていた。


「今日もお疲れさま。ほら、晩御飯だよ~」


 ひんやりと冷えた皿を受け取りながら、アメリアははにかむような笑みを青年に向けた。


「ありがと、キーラ!でも夕飯がお菓子なの?」

「夕飯は別にあるよ~。あれ、じゃあ晩御飯じゃないや。前菜かな~」

「野菜でもないし」


 青年、キーラののんびりとした声に苦笑しながら、アメリアは姿勢を正して座り直した。 キーラも同じゆきだるまを持って、アメリアの正面の席にゆっくりと座る。

 アメリアは滑らかなゆきだるまをスプーンで削り、口に入れる。素朴な甘さと滑らかな舌触りが、疲れた体にじんわりと沁みた。


「やっぱ疲れたときには甘いものだねー!キーラがいてくれて本当に良かった!」

「そう?うれしいな~」


 キーラはゆきだるまの頭を一口で放り込むと、頭に被っていた帽子を取る。雲のように柔らかそうな銀髪と共に、長く尖った耳が姿を現した。

 真横に伸びたその耳を見ると、アメリアはキーラが人間ではないことを思い出す。普段の穏やかな様子から忘れそうになるが、彼は本来、この町にいてはいけない存在だ。


 このキーラこそが、店の看板メニューの開発者である。そして彼は、かつて人間と敵対した“魔族”だった。

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