舞台は役場にある不思議な窓口、通称トクマド。そこで働くゆうら君は周りのみんなからこれでもかというほど甘やかされ、愛されている青年です。
居酒屋わびすけで出てくる春の山菜やおでん、鮎の塩焼き。読んでいるだけでお腹がすいてくる美味しそうな描写がたっぷりですが、実はこの物語、ただのほっこり系ではありません。ゆうら君を育てる店主や梓さんの愛は、魚の小骨一本まで抜いてあげるほど超ド級の過保護。さらに、新しく登場したミステリアスな夜刀さんなど人間離れした存在たちが次々と現れて物語は一気に美しくてちょっと怖い幻想的な世界へと引き込まれます。
誰が人間で誰がたぬき(?)なのか
ゆうら君の本当の正体は何なのか
くすっと笑えるギャグと、背筋がゾクッとするホラー。この絶妙なバランスがクセになって、一度読み始めたら止まりません。物語がいよいよ盛り上がる後半戦。ゆうら君が自分一人で鮎を食べるという小さな自立を見せた今こそ、この不思議で愛おしい世界をのぞいて見ませんか?
社会派×伝奇!!創作歴わずか数ヶ月にして、現代社会の闇をあやかしの理で描き切る。毎日投稿という熱量が生んだ、奇跡のような完結作。
舞台は、古書蔵を改装した居酒屋兼定食屋『つばき庵わびすけ』。
そして、役場の片隅にある特殊事案窓口、通称『トクマド』。
本作は、人ならざる「業」を背負わされた青年・ゆうらと、彼を溺愛しつつその過酷な運命を肩代わりする店主・椿雪(つばき)、そして彼らを取り巻く一癖も二癖もある「隣人」たちの物語です。
特筆すべきは、徹底して描き込まれた「食」と「湿度」の描写です。
おでんの大根、殻付きのゆで卵、そして泥臭い春の香りがするつくしの天ぷら……。差し出される料理の一皿一皿が、キャラクターたちの過去や執着を饒舌に語ります。
現実社会が抱える「ヤングケアラー」や「孤独死」といった切実な問題を、神仙や樹精といったあやかしの視点を交えて描く手法は見事の一言。残酷な真実を暴きながらも、最後には温かいほうじ茶を差し出されたような、ひんやりとした、けれど確かな救いがあります。
「一番最初に降る雪は、どこに消えるのだろうな」
その問いの答えを探すように、一話一話大切に読み進めたくなる珠玉の連作短編集です。
静かな夜、この「境界線」の物語に浸ってみることを強くお勧めします。
素晴らしい作品の完結、本当にお疲れ様でした!このレビューが、一人でも多くの読者に届くきっかけになれば幸いです。