神はどこ?

昼と夜と宇宙の外と

とある男の記憶

※この物語はフィクションです。

作中には宗教や信仰に関する描写がありますが、特定の宗教や信念を否定する意図はありません。あくまで一つの物語としてお読みください。

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物心がついた頃から、私は神と密接な関係にありました。

家の者は全員が同じ神を崇拝し、そのあまりの必死さに国は神によって成り立っているとすら私は錯覚していました。

神に祈りを捧げていれば、いずれ神様から救済が与えられる。

神様が、私達の生活を助けてくださっている。

神様がこの大地を、水を、食料を、満天の星空さえ支えてくださっている。

毎日毎日、365日24時間、身の回りの者は神を慕っていました。

私も幼いながら、それが当たり前だと信じ、神様を崇拝していたのです。

それが、神様から救済を与えられるに等しい存在だと信じて。


思えば私は、若いうちに洗脳を解くことができた特別な存在なのでしょう。

人生の転換期は、すぐに訪れました。

私の住んでいた村は数十人規模の小さな村でしたので、子供といえば私しかいませんでした。

ある日、学校から帰ってくると、それはもう地獄のような光景で。

今の私からすればその光景は天国なのですが…今はいいでしょう。

村の者は刃物のようなもので惨殺され、生きている者さえ、息も絶え絶えな状態でした。

私は自分に助けを求める声すら無視し、ひたすら家族を探しました。

探している間も常に神に祈りを捧げ、走り、探しました。

私の家族は、それはそれはもうひどい有様で、それでもなお、私の家族は生きておりました。

私の家族すら助けを求めるその様を見つめ、私は思いました。



__ああ、神などこの世に存在しないのだと

これは、私は10歳だったときの出来事です。


神を見捨てた私が信仰したのは悪魔でした。

なぜ、悪魔なのかって?

だってこんな絶望を与える存在なぞ、悪魔しかいませんでしょう?

そして私は、悩みました。

この国では、神様に盾突くことが最も重い罪である。

そしてそれは、神様以外を信仰することも例外ではない。

悪魔を信仰しているとバレれば、私はただではすまないでしょう。

それに、私にはやりたいことがありました。

そのためには、教会の情報も手に入れなければいけません。

ならばいっそのこと、全力で信者を演じよう、と思いました。

悪魔は人の欲を読み、破滅へと向かわせる存在です。

そんな悪魔ならば私の欲をも読み取り、手助けしてくれるだろうと。

それから私は十数年かけ、善良な信者を演じ続けました。

教会には頻繁に通い、人々はもちろん、草花や物まで、自分のことよりも大切に扱ってきました。

周りの者も、私のその姿に感心し、信頼し、一切私を疑いませんでした。

神様の元で仕えるため、という口実で教会の情報を次々と手に入れました。

その中で私は、長年、誰よりも神に仕えてきた者には、なんでも願い事を叶えてくれる儀式がある、という情報を掴みました。

私は、その選ばれし者になるため、長年の努力を惜しみなく続けました。


そしてついに、その日はやってきました。

私は礼拝堂の前方で司祭の元に跪き、司祭の言葉を適当に聞き流しました。

司祭が、言いました。

「汝の願いは何であろう。長年神に仕えてきた者ならば、なんでも叶えてしんぜよう。」

私は、用意していた言葉をその場で言い放ちました。

「それは、この教会にいる者を”救済”することです。」

「汝の願いを聞き入れた。」

その言葉を聞いた時、私の願いは叶ったのです。

「じゃ、遠慮なく…」

私は隠し持っていた斧を片手に取り出し、目の前にいる司祭の頭をカチ割りました。

なぜ剣を使わなかったのかって?

だって、剣は悪を切る、神聖な物でしょう?

そんな神聖な物を使うとなれば、それは神を肯定していることになります。

それに斧は、護身用と偽れば、いくらでも所持できましたしね。

人殺しは、神への信仰を裏切ることの次に重い罪です。

すぐさま辺りは騒然とし、倒れゆく司祭の代わりに助祭が私の前に来ました。

「なぜ、司祭を切った?」

「なんでって、それが僕の言う"救済"だからだよ。」

いつもの私とは違う砕けた口調に、また空気がざわつきました。

「それは神の言う"救済"ではない。もう一度聞こう、なぜ司祭を切った?」

「それが神の言う"救済"じゃなくて、僕が信仰する悪魔にとっての"救済"だからだよ。」

私は斧をしまうことなく、言いました。

「まさかあなたは、神ではなく悪魔を崇拝しているのですか?」

「神なんて、この世にいないけど?」

教会にいる者は、みんな怒り狂いました。

「なぜそう言えるのですか?」

「じゃあ逆に聞くけど、なんで神様は僕が悪魔を信じているって見抜けなかったんだろうね?」

その問いに答える者は、誰もいませんでした。

当然です、もし誰かが反論すれば、それは「神は常に人々の心を見透かしている」という教えに反するのですから。

「では、なぜ人々は幸せに暮らせているのですか?神なくして、そのようなことはありえません。」

「ありえるでしょ、悪魔が人間に幸せを与えているんだから。最高の絶望って、最高の幸せの後に来るもんだよ?」

「いいえ、悪魔は人の欲を弄ぶだけの、邪悪な存在です。」

「そのツルピカなカチカチのハゲ頭みたいに脳が固いんだね、助祭は。」

私は両手を横に広げ、教会の天井を見上げながら、言い放ちました。

「死は、最高の救済だよ?僕は絶望のあるこの世から、救ってあげてるだけ。それに誰かにとっての救済は、誰かにとっての絶望だからね。きっと悪魔も、そんな僕を肯定してくれるはず。そう思わない?」

悪魔以外の誰一人として、私の話に肯定しませんでした。

「それに、もし神様を信じるっていうなら、僕の願いを止めることなんてできないよ。だってこの儀式によって叶えられた願いは、いかなる者も例外なく止められない。そう決まっているんだから。」

私は後ろに振り返り、黙って怯えながら、席に腰掛けている者共を見渡しました。

「大丈夫。君たちが何を信じようと、それは君たちの自由だから、僕は否定しないよ。ただ、そういう頭お花畑の人たちなんだなって思うだけだから。」

もう一度斧を構え、助祭に向き直ります。

持ち上げた斧を振り下ろすと同時に、屈託のない笑顔を、私は作りました。

「じゃ、死んでね。」





神は、生贄である。

神とは、人を助ける力を持つ、人である。



そして人は、全てを見渡すことなど、できない。


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