第22話 世界会議、村で開催!?

リオネール女王が帰還してから一月後、村にまた新たな風が吹いた。

というのも、北方連合、東の魔導連盟、西方教会――主要三勢力が同時に「世界会議」を開くと発表したのだ。

しかも開催地が、よりにもよって俺の住むこのルデン村。


村人たちは大騒ぎになった。

「な、なんでうちなんだよ!?」

「王都の大広間じゃ足りないんですかね……」

「代々農家の土地に貴族様が並ぶのか!?」


俺も頭を抱えていた。「どうしてよりによってここなんだ。」


リーゼが涼しげな声で答える。「理由は単純です。世界の中心に神樹があるから。」


「いや、だからって……!」


セリアも少し困ったように笑う。「どこも“安全で中立な場所”を求めた結果ですよ。あなたが守っている場所なら、誰も手出しできないと考えたのでしょう。」


「平和の象徴ってやつか。」

俺は苦笑した。「畑で世界会議なんて、聞いたこともない。」



数日後。村の周囲には即席の宿営地が建てられ、兵士や使節団がひっきりなしに出入りした。

畑の隅には巨大なテントが建てられ、そこが“世界会議本会場”とされた。

王国の使者アリシアが直々に開会準備の指揮を執っている。


「相変わらず、あなたは騒ぎを呼びますね。」

「呼んでねえよ。勝手に来るんだ。」


アリシアは手元の巻物を見ながら苦笑する。「北方連合はリオネール女王の提案で“神樹誓約”を採択する気です。神獣族の復活に合わせて、新しい国際条約を作るとか。」


「つまり、ここでもまた俺の名前が利用されるわけだな。」

「名だけです。実権は貴方が望まない限り持たせません。」


リーゼがそっと口を挟む。「神樹が見守る限り、この地で流血は起きません。ですが、思想のぶつかり合いは避けられませんね。」


セリアが腕を組んで付け加える。「ノア、下手をすれば“人の理”と“神々の残滓”の戦争にもなります。」


「だから止めるために集まるんだろう。」

俺は空を見上げた。「世界を守るとか大仰なもんじゃなく、ただ“繋いでいく”だけでいい。」



そして会議当日。

リーフ・ホールの前庭――石畳の広場に、各国の代表たちが並んだ。

豪奢な装束の貴族、杖を持つ魔導士、鋼鉄の鎧を纏う戦士、そして異国の族長たち。

世界の指導者が一堂に会する光景に、さすがの俺も息を呑んだ。


アリシアが前に出て告げる。「これより、“第一回・世界調和会議”を開会する!」

ざわめきとともに拍手が起こる。だが、すぐに沈黙に変わった。

視線が、俺に向かって集まったからだ。


「……なんで俺を見てる。」


リオネール女王が微笑み、口を開いた。

「この会議は“奇跡の創造者ノア”の意志を尊重して行われます。あなたの考えを改めて聞かせてほしいのです。」


唇を噛んだ側近たち、息を潜める兵士たち。あまりにも重い沈黙の中、俺は深く息を吸った。


「俺は特別な者じゃない。ただの農民だ。」

一瞬、場が凍る。


「戦も、信仰も、力の争いも、みんな“足りないこと”から始まる。金も食べ物も、心の余裕も。

 だけど、ここにあるだろう?」


俺は神樹を指さす。

「見ろよ。土地は育ち、雨は降り、風が吹く。奇跡なんていくらでも起きてる。

 必要なのは奪うことじゃない、待って、見守って、分け合うことだ。」


その瞬間、リーゼが淡く光る。

「ノア様……。」


女王が穏やかに頷いた。「“分け合う”……良い言葉です。」


続いて、東の魔導連盟の長老が口を開く。

「確かに、神の加護は過去の遺産にすぎません。これからの奇跡は、人が生み出すもの。」


ざわざわと賛同の声が広がった。

中には頷く者、悔しそうに唇を噛む者もいた。

しかし、全体の流れは静かに変わっていった。


やがてアリシアが高らかに宣言する。

「提案。“創造主ノア”の理念をもとに、新たな条約を締結する。名を“人と神獣、竜族、精霊の共生協定”!」

会場が揺れた。叫び声と拍手、そして涙。

セリアが小声で笑う。「なんだか壮大な話になってきましたね。」


「俺は畑仕事がしたいだけなんだがな。」


リーゼが答える。「これも、豊穣の延長ですよ。」



会議は三日にわたって続いた。

議題は多岐にわたり、神獣族の権利、竜族の復興、精霊との契約更新など。

だが衝突は起きなかった。

誰もが神樹の光に照らされると、不思議と声を荒げる気になれなかったのだ。


終結式の日、リオネール女王が壇上に立った。

「我々は今日、ようやく神に怯えず生きる術を手に入れた。

 その立役者に感謝を。」


手を広げて振り返り、全ての視線が再びこちらを向く。

「ノア・ルーウェン殿!」


拍手が爆発した。

子供の歓声が遠くから響き、神樹の葉が静かに光を零した。


俺は片手を挙げて短く言う。「俺なんかより、この大地に礼を言ってくれ。」


その言葉に笑いが起き、空気が少し温かくなる。



夜。会議が終わったあと、神樹の根元でセリアと二人、風にあたっていた。

村の上に無数のランタンが浮かび、空が金の粒で満たされている。


「ノア、あなたらしい言葉でしたね。」

「俺は何か特別なことをしたか?」


「いいえ。でも、そういう“普通”が今の世界に一番必要なんです。」


リーゼが光の粒となって二人の足元を照らす。「これで世界は一つに繋がりました。ですが、次の波が来るまでの静けさかもしれません。」


「波?」


「はい。世界が落ち着くと、必ずどこかで新しい流れが生まれる。その時、またノア様の背中を借りることになります。」


「……まったく、休む暇がないな。」


「いいじゃありませんか。神様だって動いてこそ輝くんです。」セリアが微笑む。


神樹が風に揺れ、葉が光を散らす。

遥か遠くで、誰かが笛を吹いていた。穏やかで、どこまでも優しい音色。


俺は深く息を吐き、ゆっくりと言った。

「世界が変わるたびに思う。何かを守るって、奇跡よりずっと難しい。でも、悪くない。」


セリアが頷いた。「ええ。私たちはその難しさを共に歩んでいるのですから。」


静かな夜が更けていく。

風が柔らかく、神樹の光が村を包む。


その穏やかな景色を見ながら、俺は小さく笑った。

「さて、明日は久しぶりに耕すか。」


「ええ。創造主ではなく、ルデンの農夫として。」


「その呼び方、気に入ってるのか?」


セリアとリーゼの笑い声が重なり、夜がゆっくりと安らいでいった。


(第22話 終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る