第6話 幕間

手の傷が痛む。治りきっていないのに馬の手綱を握っているせいもあるだろうが、どうにもあの死体を見てから気分が悪い。そもそも、いくら前線に行っているといっても死体を見慣れているわけではないのだ。それに腹も減った...

「おい人間。この馬遅すぎないか?」

そう声をかけるのはケインの後ろに座る獣人の少女グレースだ。

「ただでさえ遅い馬に無理させているんだ。そう言うな」

実際この54番の馬、かなり遅い。だが、はあはあ言いながら頑張って歩いているところを見ると馬が手を抜いているわけではないらしい。

「というか。もうそろそろ人間ではなく名前を呼んでくれ。僕はケイン・ワトソンだ」

そうケインが言うとなぜかグレースはきょとんとした顔になる。

「貴様には名前があったのか?意外と高貴な身分だったのだな」

「いや普通の家庭出身だが...」

その時ケインの脳内に昨日の出来事が思い浮かぶ。グレースが名乗った時、いかにもそれがすごいことのように言っていたのはまさか...

「もしかして獣人は高貴な身分しか名乗れないのか?」

「貴様らは違うのか?名前が皆にあったら誰が民をまとめるのかがわかりにくいだけだろう?」

...これがカルチャーショックというやつか。




「なあ、この先の村に寄ろうと思うんだがいいか?」

「は?」

グレースが威圧的な声で言う。だがここで屈するわけにはいかない。

「腹が減ってるんだよ。昨日の夜から何も食べていない。食料が欲しいんだよ。...だから剣を俺の背に突き立てるのはやめてくれ。鞘に入ってるとしても怖い」

さすがに限界だった。そもそもここまで長旅の予定ではなかったのだ。ある程度の食料は持ってきていたがそれは昨夜に尽きてしまっている。

「お前も強がっているが、おなかすいただろう?」

「それは...」

どうやらあたりらしい。彼女こそ何日も前から食べていないに違いない。そういえば、グレースはいつからあそこにいたんだ?あの町が完全に殲滅された三日前からだとしても...

「...わかった許可しよう。ただし条件がある」

「条件?」

グレースは短剣を懐にしまいながら言った。

「私もつれていけ」





村は前線から30キロほどしか離れていないとはいえ、それなりに活気にあふれている。戦争は庶民にとって、どこか遠くの出来事なのだ。

「...本当に行くのか?」

ケインはフードを被りなおすグレースに言う。ここは村から少し離れた林の中である。馬をつないでおくにも、グレースのことを見られないようにするのにも都合がよかった。

「当たり前だ。貴様が村人に通報するかもしれん」

それはそうだが..とケインは頭をかく。

「とにかく、絶対にばれないようにするんだぞ」

「当然だ。私を誰だと思っている。私はジャーネル国の忠誠なるメール隊を引きいしフォンテーヌ家の...あ!おい!待て!」

ケインはグレースが言い終わる前にさっさと歩き始める。あの口上が始まると長くなるのだ。

(何も起きないといいが...)

ケインは近づいてくる村の家々を見ながら願った。









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