第5話 違和感

ケインはグレースの後をついて行っていた。

(兵の死体があるのはまだ理解できる。だが、メッセージとはどういうことだ?)

もしかするとグレースが血のシミなんかをメッセージと勘違いした可能性もある。というか、こいつ人間の言葉が読めるのか?

「私が見間違えたということはないぞ」

ケインの考えを見透かしたかのようにグレースは言う。

「私は人間の言葉を話すだけでなく、読んで書くこともできる。もちろん獣人語もだ。下等な人間と同じにするな。」

こいつはいちいち人間の悪口を言わなければ気が済まないのだろうか。いや、本来戦争している国同士のものなんて憎みあうのが普通か。むしろ僕が...

「ここだ」

ケインがそうこう考えているうちに目的の場所についたようだった。どうやらそこは地下への入り口らしい。扉は開いているがもとは閉まっていたのだろう。ずいぶん古びていて崩れないか心配だったが、グレースが何のためらいもなく入っていくので仕方なくそれに続いた。





確かにそこには兵士の死体があった。ただ身元を示すようなものはなく目立った外傷もない。外から這ってこの地下室まで来たのだろう。鎧には少し土がついていた。

「これは...」

「毒だろうな。以前見たことがある」

グレースが死体を見ながら言う。確かに死体の腕には斑点らしきものができた跡があった。

「かわいそうに。戦いの中で毒を使われたのか」

そこまで言ってケインはハッとし、隣の少女を見やる。案の定少女は怒りの表情を浮かべている。

「貴様は我々が...貴きミール軍が毒などという卑怯なものを使ったと言いたいのか?」

グレースは今にも短剣を抜きそうになっている。

「いや、違うんだ!ただ戦っている相手が殺したと考えるのが普通だろ?」

「それを見ろ」

グレースは剣で壁を指す。ケインは少女を警戒しながらそちらを見る。そしてそこには...



「うらぎりもの」




確かにそう書かれていた。おそらく死ぬ間際に力を振り絞り、自らの血で書いたのだろう。

「これは...」

「人間は愚かだな。毒を作るだけでなく、それを味方に使うとは」

グレースは心底憐れんでいるような声で言う。

「そんな...でも実際殺されたとして、動機は何だ?」

「私が知るか。人間は癇癪ですぐ殺すからな」

グレースは僕に死体を見せて満足したのか立ち去ろうとしている。

「裏切者なんているはずがない。理由だって...」

「そこまで言うのなら」

グレースは地上に上る階段の途中で立ち止まり、ケインに言う。

「先のジョンとかいう人間。なぜここに来たと思う?」

「それは僕の様子を心配して...」

「貴様がここにいる確信もないのにか?」

確かにそうだ。今日ここに僕がいるのはたまたまだ。たまたまグレースを見つけたからだ。じゃあなぜ....

「貴様を殺すためだ。だから鎧をつけていた。ただ本部に帰るだけなのに武装する必要もないだろ?」

グレースは当たり前かのように言う。

「まさか..」

だとしても違和感は残る。もし、グレースの言う通り僕を殺そうとしていたとして、わざわざ僕に死体を見つけさせるような真似をするだろうか。わざわざこの町を捜索させるような真似を...

「おい人間、行くぞ。貴様らの内ゲバなどどうでもいい」

ケインがなかなか出てこないことにしびれを切らせたグレースが外から呼びかける。ケインは我に返り階段を上り始める。せめて埋葬ぐらいしてやりたかったが、グレースが許してくれないだろう。ケインはもう一度死体の方を振り返った。

(裏切者..もし本当にいるのだとしたら、僕はとんでもない深淵をのぞき込んでいるんじゃないか?)





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