星めぐり常世草子 巻の一 星降ろしの巻

鈴木人頭

冥土帰りの冥官

 今は昔、人々がこの世ならざるものの脅威を信じていた頃。都に一人の文官があった。


 彼は若かりし頃、帝の手前で無礼を犯し、その罪を咎められ島流しに処された。

 その折、彼を幼少より知る大臣が帝に進言し、彼を助けた。

 彼は大臣に深く感謝し

「此度のご恩は忘れませぬ、いつか必ずお返しいたします」

 と述べた。


 月日が経ち、大臣は重き病に臥せり、たちどころに死んでしまった。

 死した大臣は閻魔王宮へと下り、王の座す裁判の間へと引き摺り出された。

 ふと大臣が面を上げると、そこには見知った貌の冥官があった。それは件の文官であった。

 大臣が訝しげに冥官を見つめていると、冥官は笏を取り王に耳打ちした。

「この方は自らを顧みず他者を助くる心を持つ善きお方です。

 此度のような無念の死は、誰も望んでおりませぬ。どうかわたくしに免じてお赦しを」


 王はこれを聞き

「このようなことはめったにしないことであるが、彼の進言であるならばそれを聞こう。

 速やかに現世へ戻られよ」

 と告げた。


 気づけば大臣は再び床の中にあった。

 病は日を経るごとに治っていったが、かの冥土の出来事は夢か現か分からぬ故

 胸の内に秘めていた。


 月日が経ち、大臣はかの文官と面を合わせる機会があった。

 大臣は彼に忍び寄り、件の出来事について尋ねた。すると文官は

「往年のご恩をお返ししたまでのことにございます」

 と述べ、妖しき笑みをふふみて、その場を去った。


 いつしかこの話は都中に伝えられ、かの文官は只人にあらず

 閻魔王宮の臣として通う「冥土帰りの冥官」であると伝えられるようになった。

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