第12話:王都のデフォルト(国家破綻の予兆)

 査察団を追い返した一週間後。バルトレイ領の活気とは対照的に、王都からの報告書には不穏な数字が並んでいた。

「リヒト、これを見て。王都の『魔導金貨』の純度が、先月から一五%も落ちているわ。市場では物価が跳ね上がって、暴動寸前よ」

 クロエが差し出した金貨を、リヒトは一瞥もせずに鑑定する。

【通貨名:王国金貨(劣化版)】

【実質価値:額面の六二%】

【偽造可能性:極めて高い】

「……王家が禁じ手に手を出しましたね。通貨の改鋳(かいちゅう)です。金貨に混ぜ物をし、枚数を増やして当座の戦費を捻出した。ですが、それは自国の信用を切り売りする自殺行為だ」

 リヒトの瞳には、王都の巨大な時計塔が視えていた。その針は、刻一刻と「国家破綻」という終焉へ向かっている。

「クロエさん。今すぐ、我が商会が保有している『王都債券』をすべて売却してください。……価格は市場の二割引きでいい。一刻も早く、現物の魔導銀に替えるんです」

「えっ!? 二割引き!? それじゃ大赤字じゃない!」

「いいえ。明日には、その債券は『紙クズ』にすらならなくなります。……売り抜けるのは、今この瞬間しかありません」

 リヒトの指示で、バルトレイ商会は王都の債券を市場に一斉放出(パニック・セル)した。

 これに気づいた敏感な大商人たちが、我先にと追随する。

「バルトレイが売っているぞ! あそこは数字に異常に明るい。逃げろ! 王都から逃げろ!」

 その日の午後。王都の中央銀行前には、預金を引き出そうとする市民が殺到し、怒号が飛び交った。

 取り付け騒ぎの発生である。

 一方、王都の玉座の間。

 無能な国王と、保身に走る大臣たちが頭を抱えていた。

「どういうことだ! なぜ誰も我が国の債券を買わんのだ!」

「陛下……。バルトレイ領の『あの鑑定士』が、我が国の帳簿が火の車であると、市場にバラしたようでして……」

 リヒトが仕掛けたのは、単なる売却ではない。

 彼がこれまで鑑定し貯め込んできた「王都の負債の真実」を、匿名で全ギルドにリークしたのだ。

「……リヒト・コンサルティング商会。あの生意気な平民を、反逆罪で捕らえよ!」

 国王の絶叫が響くが、時すでに遅し。

 王都を守る近衛騎士団の給料すら、もはや「価値を失った金貨」では支払えなくなっていた。

 リヒトは、バルトレイ領の境界線に立ち、押し寄せる難民と、それを追う王都の影を見つめていた。

「……さて。国家という巨大な『不良債権』。どうやって買い叩きましょうか」

 リヒトの瞳には、王都全体の**【買収コスト:一〇〇万エリス(投げ売り価格)】**という驚愕の数字が浮かんでいた。

【王国:国家信用崩壊】

【リヒト:王都買収作戦(テイクオーバー)開始】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る