第11話:王都査察団の襲来(会計監査の牙)
バルトレイ領の正門に、黄金の紋章を掲げた豪華な馬車隊が到着した。
王都から派遣された「中央貴族連合」の査察団だ。彼らの目的は再建された領地の接収、つまり「美味しいところ取り」である。
「フン、平民風情が領主を気取るとはな。不当な手段で公爵家を陥れた罪、重く受け止めてもらおうか」
馬車から降り立ったのは、肥え太った査察官・バルガス伯爵。
彼はリヒトが差し出した歓迎の握手を無視し、土足で執務室へと踏み込んだ。
「……不当な手段、ですか。具体的にどの条文に抵触しているとおっしゃるのですか?」
リヒトは表情一つ変えず、淡々と問い返す。
「黙れ! 貴様が発行している独自の通貨『リヒト・ノート』だ! これは王国の通貨法に違反する偽札同然の代物。即刻、全額没収し、この領地の管理権を王都へ返上せよ!」
バルガスの背後には、武装した王都騎士団が控えている。物理的な圧力でリヒトを屈服させる算段だ。
だが、リヒトの瞳にはバルガスの「正体」が数字で透けて見えていた。
【個体名:バルガス・フォン・レードル】
【隠し口座残高:2億4,000万エリス(不正還流分)】
【弱点:王都建設予算の横領疑惑(立証率98%)】
「……没収、ですか。それは困りますね。この通貨は、バルトレイ領の『魔導銀』を裏付け資産(担保)にした、極めて健全な債券ですから」
リヒトは一枚の書類をバルガスの前に突きつけた。
「それよりも、バルガス閣下。あなたが王都で進めている『新王宮の改修工事』……鑑定したところ、材料費が市場価格の三倍で計上されていますね? 差額の二億エリスは、一体どこへ消えたのでしょうか?」
「な、ななな……何を馬鹿なことを!」
「数字は嘘をつきません。あなたが昨夜、愛人に買い与えた『聖王国の首飾り』……あれ、公費で購入した備品リストに載っていますよ。シリアルナンバーまで一致しています」
バルガスの顔から、一気に脂汗が吹き出した。
リヒトはさらに、査察団全員の「秘密の帳簿」を次々と口にし始める。
「副官のドニ君。君のギャンブルによる借金、三千万エリス。……書記官のメアリさん。君が実家に不正送金している月額五十万エリス。……これらすべて、今すぐ王都の『検察局』に送信してもよろしいですか?」
執務室に、氷のような沈黙が流れた。
最強の武器であるはずの「権力」が、リヒトの持つ「情報(数字)」によって、一瞬で自爆装置へと変えられたのだ。
「……さあ、バルガス閣下。査察の結果はどうなりましたか?」
リヒトが冷たく微笑む。
バルガスはガタガタと震える手で、リヒトが用意した「バルトレイ領の自治権を認める承認書」に、震える手で判を押した。
「……り、領内経営に、一点の曇りもなし! 完璧な……再建である!」
逃げるように去っていく査察団を見送り、クロエが呆然と呟く。
「リヒト……あなた、いつの間に王都の帳簿まで鑑定したの?」
「隣国にいた頃、王都のゴミ捨て場から出た『廃棄書類』をすべて買い取って鑑定しておいたんですよ。……情報は、寝かせておくと熟成(レバレッジ)が効きますからね」
リヒトの視線は、もはやバルトレイ領にはなかった。
彼の瞳には、腐敗しきった王都全体の**【崩壊確率:82%】**という数字が、はっきりと映し出されていた。
【バルトレイ領:王都公認の特別自治区へ昇格】
【リヒトの敵:王国そのものへ】
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