第4話:流通の「急所」を買い叩く

「一、一千五百万エリス……。夢じゃないわよね?」

 オークション会場の裏手で、クロエが震える手で小切手を握りしめていた。

 昨日まで倒産寸前、パンの耳をかじる生活だった彼女にとって、それは国家予算にも匹敵する大金だ。

「夢じゃありません。ですが、これはただの『種銭(たねぜに)』です。クロエさん、この金で次に買うものを指示します」

 僕はギルドの地図を広げ、街の外れにある「寂れた検問所」と「老朽化した橋」を指差した。

「……えっ? こんなボロボロの場所を買うの? もっと立派な店舗を構えるんじゃなくて?」

「店舗なんて後回しです。ビジネスの基本は『川上』を押さえること。鑑定した結果、この橋……来月には崩落しますよ」

 僕の【真実の計数(ログ・アナライザー)】は、橋の強度不足と、管理ギルドによる『修繕費の着服』を完璧に捉えていた。

【構造物:ラザルス大橋】

【耐久値:残り12%】

【着服された修繕予算:累計800万エリス】

「今、この橋を管理している『物流ギルド・バッカス』は、赤字を隠すためにこの不動産を売りに出したがっている。格安で買い取ります」

 数時間後。

 僕たちは物流ギルドの会合に乗り込んだ。

 脂ぎった顔のギルド長が、僕たちを鼻で笑う。

「ケッ、成金小僧が何の用だ? あのボロ橋を買い取りたいだと? あんな維持費ばかりかかるゴミ、百エリスでもいいぜ!」

「……そうですか。では、言い値で契約しましょう。ただし、一つだけ条件を。――今後、この橋を通過する『バルトレイ領(旧領地)』の荷物に関しては、僕が自由に通行料を設定できるものとする」

「ああ、好きにしろ! あんな辺境の荷物など知ったことか!」

 契約書にサインがなされた瞬間、僕の視界の数字が「黄金色」に弾けた。

【戦略資産:ラザルス大橋を取得】

【予測収益率:∞(インフィニティ)】

 一週間後。

 リヒトの予言通り、バッカスギルドが管理していた他のルートが土砂崩れで封鎖。

 この街に入るための唯一の道は、リヒトが買い取った「ラザルス大橋」だけとなった。

「な、なんだと……!? バルトレイ領からの食料運搬馬車が、橋の手前で止められているだと!?」

 ゼノス公子の叫びが執務室に響く。

 報告に来た兵士が、青ざめた顔で続けた。

「は、はい……。橋の新しいオーナーが、通行料を『従来の1,000倍』に設定すると。払えないなら、荷物を置いていけと言っています!」

「1,000倍だと!? ふざけるな、そんなの強盗だ!」

「オーナーの伝言です。『需要と供給の結果です。嫌なら、どうぞ川を泳いで渡ってください』……とのことです!」

 その頃、僕は新しく補強された橋の上で、クロエと共にお茶を飲んでいた。

 目の前には、通行を止められた公爵領の馬車が列をなしている。

「リヒト、これじゃ公爵領の経済が止まっちゃうわよ?」

「いいんです。あそこは一度、徹底的に『デトックス(毒出し)』が必要ですから。……さて、次はあの傲慢なギルド長に、不渡り(ふわたり)の恐怖を教えてあげましょうか」

 僕は優雅にカップを置き、次なる「買収計画」の書類を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る