第3話:ゴミを「伝説」に書き換える(リ・ブランディング)

「ええっ!? この魔導具の残骸を、オークションに出すんですか?」

 クロエが素っ頓狂な声を上げた。

 目の前にあるのは、錆びついた歯車と、魔力が枯渇してくすんだ魔石の破片。誰が見ても、ただの不燃ゴミだ。

「ええ。ですが、そのままでは一文にもなりません」

 僕は机の上に、鑑定眼で見出した【潜在価値】を書き出していく。

「クロエさん。市場価値というのは『需要と供給』だけで決まるのではありません。『物語(ストーリー)』によって決まるんです」

「物語……?」

「はい。この魔石、鑑定したところ、一千年前の【聖王国時代】の術式ラインが残っています。今は動きませんが、ある『特定の手順』を踏めば、一時的に輝きを取り戻す」

 僕は懐から、道中で拾った安価な触媒液を取り出し、魔石の表面に薄く塗布した。

 すると、どうだろう。

 死んでいたはずの魔石が、脈打つような淡い琥珀色の光を放ち始めたではないか。

「ひゃあ……! 綺麗……」

「これが『演出』です。僕の鑑定眼には視えています。明日、この街に視察に来る大富豪――ハモンド公は、重度の『聖王国マニア』。彼は、失われた時代の技術を求めて、年間一千万エリスを投じている」

 僕はニヤリと笑い、さらに筆を走らせる。

「彼にとって、これはただのゴミじゃない。歴史のミッシングリンクを埋める『唯一の遺産』になる。……クロエさん、今すぐギルドに広告を出してください。キャッチコピーはこうです」

――『千年の沈黙を破る、聖王国の鼓動。明日、その輝きが審判を受ける』

「そんな、大げさな……。嘘になりませんか?」

「嘘じゃありません。事実、光っていますからね。僕たちはただ、価値を『翻訳』してあげるだけです」

 翌日。

 商業ギルドのオークション会場は、異様な熱気に包まれていた。

 リヒトの狙い通り、ハモンド公が顔を真っ赤にして最前列に陣取っている。

「……五百万エリス!」

「いや、八百万だ!」

 ゴミ同然だった魔石の破片が、一瞬でクロエの借金額を跳ね除けていく。

 最終的な落札価格は、驚愕の――二千万エリス。

 呆然と立ち尽くすクロエの隣で、僕は冷徹に帳簿を更新した。

【商会ステータス:負債完済】

【現在手元資金:一千五百万エリス】

「……さて。軍資金は貯まりました。次は、この街の『物流』を支配しましょうか」

 その頃。

 リヒトを追放したバルトレイ領では。

 

「おい! なぜ税収が予定の半分しかないんだ!?」

 ゼノス公子の怒声が響く。

 彼らはまだ気づいていない。

 リヒトが去り際に、密かに領地内の「物流の急所(ボトルネック)」を閉じてきたことに。

 公爵領の資産が、目に見えない速さで「蒸発」し始めていることに――。

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