「山を追われた影」
人一
「山を追われた影」
「なあ、今日のホームルームで言ってた不審者情報覚えてるか?」
「ああ、あの耄碌したババアの話だろ?
あちこち徘徊して子供たちに声かけて回ってるって言う。」
「そうそう。いや~ほんとに徘徊老人になんてなりたくねぇな~」
『おい、おめんどすかへでけ。山はどごさある?』
「は?急になんだよ?」
「てか何言ってんだよ。全然分かんねーよ。
……つーかコイツが今話してた徘徊ババアじゃね?」
「そうだ、そうに違いねーよ。」
『おめんど質問さ答えでけ。山はどごさある?』
「はぁ?山?そんなん……知らねーよっ!」
――ドンッ……ガシャン!
「おい……突き飛ばすのはやり過ぎだろ……」
「知るかよ。不審者に出会って怖かった。で正当防衛成立するだろ?」
『……おめんどなすて質問さ答えでぐれねじゃ』
続きまして、昨夜午後21時頃、〇〇町××通りで発生した事件について続報が入りました。死亡したのは〇〇高等学校に通う17歳の――さんと――さんとのことです。遺体は激しく損壊しており、警察が詳しい状況を調査しています。
遺体には複数箇所に咬まれたような痕が確認されていると報告されています。また、現場には血痕が広範囲に残されており、通行人に対して近づかないよう警戒が呼びかけられています。警察は現在、不審者情報との関連も視野に入れながら捜査を進めています。
『山はどごさある……』
「おばあちゃん、ちょっといいですか?ここで何をされているのかな?」
『おめはだぃだ?何の用だ?それよりこっちの質問さ答えでけ。』
「えっと……言ってることが難しくてよく分からないな……
とりあえず、僕は警官です。最近不審者情報もありますし、こんな時間に1人で歩いてるおばあちゃんが心配になって声をかけたんです。」
『んだんずな?まぁとりあえず山がどごさあるがすかへでけ』
「えっと……山ってのは……まぁとりあえず、おばあちゃん立ち話もなんですしパトカーに乗ってください。
ほら、こっちですよ。」
『質問さ答えでけ。秋成母っちゃのしゃべるごどが聞げねのが?』
「え?どうして僕の名前を……それにお母さんの声で……」
警官の目から大粒の涙が溢れ出した。
「うっうっう……お母さん……もう声も聞けないと思ってた……ごめん……ごめん……あの時のことをずっと謝りたかったんだ……」
『母っちゃは全部全部許すてける。』
うずくまって咽び泣く警官を尻目に老婆は立ち去った。
「ねぇお父さん、宿題でこの町のこと調べてるんだけど……なにか知らない?」
「え?この町のこと?……ちょっと待ってろ。」
しばらくして、父親は古くて大きな本を持ってきて広げた。
「これは、この町の歴史書だ。ここ数年は更新が途絶えちまってるが、この町ができた当時からしばらくのことがこの1冊で調べれるんだ。
じゃあお父さん風呂入ってくるから、しっかり調べとくんだぞ。」
「はーい。
……うえ、漢字ばっかりだ……
この町は、30年くらい前に近くにできた当時の最新の工場のベッドタウンとして、山を切り開いて作られたニュータウン……
へ~そうなんだ。確かにお父さんも、みんなのお父さんもあの工場で働いてるもんな。」
少年が調べ物をノートにまとめているうちに、夜はどんどん更けていった。
『おい、おめ。山がどごさあるがすかへでけねべが?』
居場所を失った。帰るべき土地を失った。
何もかも人間の都合で、少しづつしかし確実に山は開かれていった。
町をいつまでも彷徨い歩く山姥は言う。
『山は……わの帰るべぎ山はどごさある?』
「山を追われた影」 人一 @hitoHito93
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