小説駄弁

すいすい / 霜惣吹翠

駄弁

「この前、このHBの鉛筆を三万円で売ってみろと言われたね。そんなことできたら面接に来ていないって言い返したさ」

「それでどうなった?」

「御覧の有様だよ。深夜にファミレスでカフェラテ飲んでる」

「お前、やる気あんのかよ」

「同じくコーラ飲んでいるお前が言うなよ」


 二人は高校時代の同級生。なんやかんやあって地元に帰ってきたところで出会った。それから数年、たまに雑談するようになった。


「あいつが結婚したこととか話そうと思ったんだけど。本筋から逸れるからやめるわ」

「滅茶苦茶興味あるんだけど!」

「俺さ。趣味で小説書いてんだけど」

「へー。誰と結婚したん?」

「全然、PVあがらなくてさ。まぁそりゃそうだよなって。適当に書きたいの書いてるだけだもん」

「へー。いつ結婚式あるん?」

「でな。こういうのは適当じゃダメだ。ちゃんと計算した方がいいと思うんだ。でもさ、何をどう考えろって言うのかわかんねえわ」

「なるほど。絶対に結婚の話しないな」


 いささかわかりにくくなってきたので二人に名前を付けようと思う。寝ぐせと髭だ。小説の話を始めたほうが寝ぐせだ。そうじゃないほうが髭だ。年齢はだいたい二十五か六。どちらもフリーターだ。

 次の会話はフリーターが話し始める。

 ?

 どっちやねん?

 読解力あるだろ。分かれ(投げ出し)。


「僕の父は建築家だからさ。建設的に考えてるんだ。それが移ってそういうのはわかる」

「そういうの? 頭がよかったらなぜフリーターをやっているのか。欠陥じゃねえか」

「まあ落ち着けよ。つまりは面白さとは何かって話だろ。何が人を惹きつけるのか」

「そうだ」

「簡単だよ。適当に刷った紙に薬混ぜればいい」

「外道乙」

「冗談」

「笑える」真顔。


 寝ぐせが頬杖をして砂糖の棒を鼻へ掛けて揺らし始めた。


「いやさ。小説の面白さってよくわかんねえんだよね」

「じゃあなぜ書いてるし」

「書くのは楽しかったりそうじゃなかったりする。あと読めば確かに面白いものもある」

「じゃあ真似しろよ」

「だいたい面白いと思うのが純文学なんだよね。ライトノベルやりたい。純文とかしんどいし。そういう面白さじゃなくてさ」

「えーと。アニメとか漫画とかそういうの?」

「まぁそう。でもライトノベル読んでもそういうのじゃない。なんか二十五にもなって少年漫画みたいな感情的な話って書けない。自分が面白く思わないな」

「注文が多いな。そこの美人な店員さーん!」

「お前が言うな」

「あ。そっちじゃないです。どうみたっておっさんですが」


 店長とは仲がいいので許されます。なお寝ぐせも拳骨された。あとこいつ、深夜なのにミートパスタ食べるつもりかよ。キモイ。脇だけにしとけよミートパスタの臭い。


「どうした?」

「えっと。だけどさ。サイトとか見ると未だに復讐とか多いじゃん。ラブコメというよりエロとか多いじゃん」

「せやな。反日な中国人並みに復讐したがってるな」

「それライン越えだと思うからな?」

「おっけー天安門。でりしゃすミートパスタ」

「ちなみにエロは?」

「一夫多妻に憧れたラブコメ主人公がイスラム教に入信しちゃうとか面白そう」

「ふつうにライン越えだからな。話し戻すぞ」


 カフェラテごくごく。

 むしゃむしゃミートパスタ。

 弾けとんだミート。カフェラテに。

 ボーイズ・ミート・ミートカフェラテ。


「くだらね」

「なんか気持ちいい話じゃなくて。面白い話がいいんだ。面白いの意味が分からないけど」

「うーん。めんどいから純文やれよ。それで不倫しまくって共産主義者になって自殺しろ」

「はい。ライン越え。めんどくさいから過激なこと言うのやめろ」

「やめる」

「よろしい」

「で?」

「つまりライトノベルだけど気持ちいいとかじゃなくてちゃんと面白いやつ。で、なにそれ?」

「なるほど。シェイクスピアが言うにはラブコメか、ノットラブコメか。つまり九十九割はラブコメだ」

「恋愛経験ない(´・ω・`)」

「七割は無いと思うぞ。あるかもしれんが」

「どれくらい自信がある?」

「某新聞社が高市の支持率を嘘だと言うくらい」

「よくわからん。ラブコメか。他には?」

「なんで他だ?」

「ラブコメって結構固まってるよね。ヒロインの特徴とかみんな同じだもの」

「でも年頃の少年にとっては一期一会。クラスメイトより美人なら誰でもいい。で、あいつ誰と結婚したん?」

「神崎」

「かんざんきぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!?」

「話し戻すぞ」

「あい」涙ポロリ。ついでにズボンポロリ。


 ソレを見て美人な店員さんが嘲けた。涙が湯水のごとく出てきた。


「真面目にやれ」

「シェイクスピアは言ってたな」

「なんと?」

「ライトノベルは死んだ。ついでに神も死んだ」

「それは別の人だろ。言ってないし」

「そうだっけ」

「そうだよ」

「じゃあそういうことにしておこう」

「うん」

「でも僕、あんまりわかんないしな。なんかないの? こういうイメージとか」

「イメージはあるさ。でもそうじゃなくて」

「じゃあ何さ。はっきりしろよ」

「うん。アリストテレスとかが言ってたけどさ。物には本来の目的があるって」

「尻学?」

「哲学。哲学でもないけど。小説の役割ってなんだろって」

「うーん」


――駄弁。


「駄弁?」

「そうだろ。夏目漱石が何書いても鼻くそなおっさんが好きに書いているだけだし、芥川が何を完成させても芥川だし、太宰は暴れるし、川端は川端だし」

「適当だろ」

「うん」

「三島は?」

「とりあえず本能寺焼いてから自衛隊入っとく」

「適当だろ」

「うん。だから駄弁」

「ラノベは?」

「それこそ勢い? よくわかんない(`・ω・´)」

「なぜ自信気なのか」

「でも実際そうだよ。小説なんか読んでもな。アニメが良い。漫画でもいい。あと音楽。娯楽なんていくらでもある。小説? 読むのめんどくさい。快楽だけなら他の娯楽のほうが手っ取り早いし。極論、薬でいいけど」

「はい。ライン越え」

「いいえ。合法ドラッグ。またの名をたばこ」

「ここ。喫煙できないよ」

「外行ってきまーす」ケロッ。


 外から手を振ってくる。間違って車に轢かれればいいのに。

 戻ってきた。


「確かに小説なんか読むよりアニメでいいよな。作るのは楽だけど読むのはつまらないか」

「うん。でもここまで2500文字読んでいる人。いいね!して。はーい。してくれた人にはバイオハザードレクイエム(バイオハザードレクイエム抜き)を送ります」

「何が届くのそれ」

「運動器具」

「意味わかんねえ」

「二万円でいいよ! いいねしてね!」

「意味わかんねえ(゜-゜)」

「顔文字使うのは?」

「(゜-゜)」


 時を戻そう。


「小説の目的って駄弁なん? でも需要が無いよねって話だったっけ?」

「僕はそう思う。気取ってるやつしか読まんし書かん。現に去年はどっちの賞も出なかったよ」

「ここぞとばかりに」

「僕はあんまり読まないよ。というかラノベにしたって売れてるやつはアニメ化するしね。原作が人気だからってのはそうだけど。社会人は忙しいしね。少子高齢化は甚だしいしね。出生率がまた下がったよ! やったね!」

「おろおろ」

「で、ターゲット層は?」

「面接官みたいなこと言うじゃん。あんまりないな。少年向けではないだろうけど」

「大人向けってことはエロがあるんですか! 男の人っていつもそうですね!」

「ないよ」

「あれよ」

「でも思ったわ。子供が少ないからって学生が読むような話書かないのも良くないよな」

「資本主義的にはありです」

「気持ちの話」

「さっき感情論的な~って言ったじゃん」

「学生が読むようなもので大人の事情とか冷めない?」

「今の子供は賢いよ? うちの甥なんか三歳で微分積分できるし、我が闘争読んでる」

「コワイコワイ」

「英才教育では?」

「どこへ向かっているのか」


 慌てふためき過ぎて砂糖袋をコーラへ入れてしまう寝ぐせだった。髭は激怒した。コーラが真っ白だ!


「砂糖を駆逐してやる」

「そっちかーい」

「そっちですが? ついでにイランを爆撃…」

「はい。アウト」

「ごめんなさい。って誰に謝るんですか?」

「知らん。話を戻すよ」

「n回目」

「じゃあなにさ! ラブコメでキザな主人公が女の子を侍らせてエッチなことすればいいんですか!」

「そうだよ」

「マジか。いいのか中高生。退廃的だぞ?」

「広まれ。ダザイイズム。ついでに共産主義」

「アウト」

「でも実際そう。三大欲求だよ。ようつべはおっさんが料理作っているショート動画。小説やアニメはラブコメでエッチ。睡眠は? ニトリ?」

「日本人は寝ないぞ」

「そうだった」

「違うが」

「そうだった」

「違うが」

「そうだった」

「そうだが?」

「ニーズってあるじゃん。まずは統計学だよ。どういうのが売れているか」

「じゃあ調べよう」


調べたけど載せるのめんどくさい。


「思っていたよりラノベなかったわ。シリーズものが多い。アニメ化しているシリーズだね。バトルとかSFっぽいのとか。もちろんなろうも。」

「ところで読みたいのあった?」

「ふぅ……無い。これどう思う?」

「お前、ラノベ嫌いやん」

「まぁ待てよ。シリーズものが多い。壁が分厚過ぎて萎えた」

「売り上げが全てじゃないけど。面白さって言ったらそういうこと。嫌だと思ったならどうぞ。こちら側へ」

「資本論(マルクスの本)渡してくんな」

「陰謀やでぇ~」

「違うだろ」

「まぁそういうこともある」

「ないだろ」

「何か言いたいことは?」

「だいたいこういう話(小説のだよ。共産じゃないよ)をするときって自分が書きたいものを書くのが一番ってなりがち」

「メジャーはメジャー。例えば巷で話題の音楽だって聴かない人は聴かない。昔のや推しの音楽ばっかりだったり」

「売り上げの話はやめるか」

「じゃあなにさ」


 だんだんと夜が明けてきた。外には出勤するスーツ姿の人たち。それに多少のわびしさとスーツ姿を通り過ぎる年金暮らしの老人に共感してしまう変な気持ち。そっち側。こっち側。


「個人的な理論。溜めて激しくとか?」

「抽象的」

「人間が面白さを感じるときってそういう感じじゃない? 一番楽なのは溜めて出す」

「下の話?」

「違うが?」

「じゃあイントロからサビみたいな?」

「そっち。しかも中身は関係ない。カタルシスなんかいらない。見せ方の問題。なのでは?」

「なるほど。ちょっとよくわかんない」

「どこが?」

「カタルシス? ロマン? いるくね?」

「やったら純文学になっちゃいそう」

「重くなるってこと? ええやん」

「ライトノベルのイメージってもっと誰でも読める方がいい。物語の世界くらいハッピーエンドで良くない? それに作られた暗い話って冒涜的じゃない?」

「誰に?」

「現実で苦しんでいる人」

「社畜のことか? 社畜のことかあああああああああ!!」

「お前、フリーターだろ」

「少年少女に社畜が異世界転生とか言われても。出生率下がるだけ。楽しさを教えてやれる大人になろうぜ。ってこと?」

「明るい話のほうが良いよね」

「せやな。じゃあ明るい話にするとして。具体的には何?」

「うーん。明るいってなんだよ」

「メジャースケール。Cキー。とか?」

「音楽じゃなくて」

「あとテンポだね。文量少なめ、展開早めとか」

「いきなり小説。音楽どこいった?」

「BPM190でイントロからぶっ飛ばす。ダンスミュージックのビートで」

「戻って来い」

「明るいって平和ってこと? わちゃわちゃすればよくね?」

「わちゃわちゃってなんやねん」

「多分コメディ。なにそれ、つまんなそう」

「だったらバトル?」

「人殺しするのにコメディって鬱じゃねえか」

「ランキング見ろ。日本人は残虐やぞ」

「殺す理由で格好をつける。人間らしいではないか。どちらにせよ殺すのに」

「逸れた」

「うん」

「じゃあラブコメ?」

「嫌だ」

「なぜ?」

「恋愛わかんない(´・ω・`)」

「エッチなことしとけ」

「というと?」

「とりあえずヒロイン沢山作るだろ」

「うん」

「で主人公をツッコミにするだろ」

「うん」

「で先生が実はイスラム教徒だろ?」

「うん?」

「主人公が一夫多妻を受け入れ先生を口説くだろ」

「あえ?」

「最終的には移民問題を――」

「アウトです」

「コメディだろぉ(´Д`)」

「どこがやねん(・_・)」

「じゃあこういうのは?」

「なに?」

「吟遊詩人が女抱きまくる話」

「エロじゃねえか」

「ああいえばこういう。粛清するぞ」

「ライン越え」

「誰に謝ればいいんですか?」

「結局、暗い内容になっちゃうのはなんで?」

「根暗だからだろ。陰キャ。ゴミはゴミらしく生きるべき」

「辛辣すぎ」

「ドブネズミみたいに美しくなりたい」

「そうかな」


 窓の向こう。子供たちがランドセルを揺らしている。朝だというのにキャーキャー楽しげに。あれを明るさというのならそんなのに惹かれない大人には毛頭どうしようもない。平和が当たり前だからこそ暗くなるのだろうか。

 なお世界情勢。


……駄弁。

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