第14話

「ーーんんっ」


 目を覚ますと、日差しが窓から差し込んで、眩しい。

 目を擦りながらも、布団から身を出し、ベッドから床へと降りる。


 降りると、何故か変な違和感がある。寝ぼけて頭がボーっとするが、なんか...


「.........って、ここ俺の実家じゃねぇかぁぁぁぁっ!?!!」


 意味わからん、何でこんなところにいる? 昨日、何かあった、か...?


「...............」


 そう、だった。俺、あの後意識を失って、それでーー


「ちょっと何よ!! 朝っぱらからうるさいわね!! 早く着替えて降りて来なさいっ!」


 ドアが開き、目の前に現れたのは、超懐かしい声に顔。俺の、母さんだ。


「なんで、俺はこんなところに...?」


「クラリスちゃんが、送ってきてくれたのよ! 後でお礼、しときなさいよ!」


「クラリス、が」


 ...そうか、そんなことをしてくれたのか。


「とりあえず、さっさと準備する!! ほらっ、早くっ!!」


「分かった分かった」


 朝からうるさいし、バタバタしてるけど。不思議と、目覚めは良かった。


「ノア、久しぶりだな」


「とっ、父さんっ!」


 扉からひょいと出てきたのは、俺の父、パウロ。俺の黒い髪は、この人譲りだ。

 そして、俺の青い瞳は母さん譲り。


「会いたかったよ、父さんっ!」


「ああ、俺もだ...!」


 父さんは、昔よく剣の稽古をつけてくれたり、色んなところに連れて行ってくれたり、本当にいい人だった。

 俺が勇者学院への入学を決めたのも、この人のお陰。

 俺の、最高の父だ。


「...ねぇ、ノアちゃん? 私の時と、反応が全然違うと思うんだけど、ねぇ?」


「あっ...かっ、母さーん、アイタカッタヨーっ!」


「ふふふっ、おいでーっ!」


 母さんは、同じく最高の母ではあるが。何だろう、


 約束は破るわよく抱きついて来るわ勝手に本を売ってくるわ砂糖を塩と間違えて味見だけさせてくるわいちいち近所に俺を紹介しに行くわ声が大きいわ優しすぎて詐欺に引っかかりまくるわ俺の事情に干渉しまくるわよく転ぶわよく怪我するわ方向音痴だわデリカシーないわ何も言わずに部屋に入ってくるわ食べるの遅いわ勝手にどっか行くわ風呂が短くて2.5時間とか長すぎるわお菓子作りすると炭ができるわクラリスに変なこと吹き込むわで、とにかく困っていた。


 まあ、そんな母さんも、大好きなことに変わりはない。


「それじゃ、みんなで朝ごはんを食べようか。用意はしてある」


「......うんっ!」


 ここはきっと、いつまでもずっと、俺の帰るべき場所だ。


 ◇


「......うがっ.........ぐへぇ」


「ちょっ、どうしたのよ、あんた。何でそんなにぐったりしてんの?」


 気持ち悪い、吐き気がしてきた。

 大体、昨日俺が飲んだのって、たかが四杯くらいだろ?

 俺って、そんなに酒に弱かったっけ...。


 見栄張って、クラリスにおぶられて...うっぷ。なんか、とっても恥ずかしい気がする。


「...いやっ、大丈夫だ。何もない。それよりも、今日は一旦昨日の続きだ。朝だけど、これも授業みたいなもんだ。みんなも聞いといてくれ」


 昨日、俺が約束に遅くなってしまったのは、こいつら、いやラナのためだ。

 魔術をあまりにも知らなさすぎるこいつには、特別なプリントとカリキュラムをみっちり作ってきた。


「まずはっ...よっと」


 俺が壁にあるボタンを押すと、ゴゴゴという音と共に、壁から黒板が現れる。


「...えっ、何これ」


「お前ら、使ったことないのか? 訓練場の黒板だよ、授業用の」


「...知らない。使ったこと、ない」


 あれ、よく使うものだと思っていたんだがな。


「とりあえず、昨日の続きから。魔素の原子構造がわかったら、後は魔術の発動について。これが、魔導還元の鍵にもなる」


「そうなの?」


「ああ。まずは、魔術の発動手順について...ハイナ。教えてくれ」


 困ったら、ハイナに振れば大体大丈夫だということに、昨日気がついた。優等生という存在のありがたさに、よく気付かされた。


「...はい。まず、高次元空間に存在するとされる、'世界の理'に接続し、詠唱で魔素へ干渉する力を一時的に得る。この詠唱の波動に、術者のイメージや意識が乗り、虚子にそれが吸収される」


「そこで一秒」


「...次に、'界域画定リアクター・セット'により、魔術の範囲、空間を指定する。その空間の中にある魔素の、外殻を回っていた虚子は共鳴し、規則的な配列を作る。

 この時、魔素は魔術詠唱による反応の手前、励起れいき状態となる。

 指定の種類は二つ、一つは単純に空間をイメージし、指定すること。もう一つは、魔素を含む物や生物を対象にすること」


「そこでも、一秒」


「...最後に、魔術の詠唱。詠唱により伝わった波動に、空間内にある魔術に使う魔素同士が反応して、結合する。これを共鳴結合と言い、魔素は超励起状態になる。

 結合すると、魔素は分子構造をとる。結合した瞬間に虚子によって抑えられていた陽子は釣り合いを失って活性化し、高次元空間からエネルギーが放出されて分子構造に流し込まれる。

 そして、その流し込まれるエネルギーが満タンになったところで、魔術は発動する。

 その分子の化学式によって、放出されたエネルギーの使い道、つまりエネルギー変換先は変わる」


「ここだ。ここの魔素の超励起状態への移行は、本質理解やイメージの繊細化で早まるが、早くても一秒弱だ。...でも、次の'エネルギーを流し込む時間'は、どれだけ早い奴でも二秒はかかる。だから、ここが決め手だ」


「決め手って、何?」


「つまり、ここで魔術が発動するまでに、どれだけ相手の分子を減らせるかに懸かっている。詠唱とは、単に化学反応のの合図に過ぎない。常に反応し続ける強化魔術相手なら、常に強化バフの量を下げさせることができる。

 ちなみに、昨日もチラッと言ったが詠唱の波長には個人差があってな。自分の魔術分子はすり抜けるから、自分の魔術が弱くなることはない」


「...それ、マジの本当にできるの? 正直、全くできる気がしないんだけど?」


 まあ、そりゃそうだよな。

 理論でいくらできるって言っても、出来なきゃ机上の空論。

 ...でも、俺はそんな体験はして欲しくない。


「じゃあ、やってみるか。おい、リン。『ファイア・ボール』を使えるか?」


「はい」


「じゃあ、今から魔術を発動してみてくれ。界域は、とりあえずその線で囲まれた部分から天井までの直方体にしよう」


 リンがうなずくのを確認すると、行動に移す。


 こっちが使うのは、『シャフト』。化学式は St 。最外殻の虚子は三個で残り一個。昨日授業でやった魔導還元だ。


「いきます。 -接続アクセス-界域画定リアクター・セットーー『ファイア・ボール』っ」

「--『シャフト』」


 ーーーーシュンっ


「なっ......!」


「...魔術が、消えた」


「結合した分子が少な過ぎて、発火する前に離散したな。言っとくけど、魔術を発動するまでの時間が遅いほど分子の魔素は St(ステラ)に奪い取られるからな。Aクラスは、発動しないなんてことにはならないだろう」


「......なんとも、屈辱的です...」


「すまんな、リン。でも、これで分かったろう。ここまで魔術は弱くなるんだ。本番は、魔導還元をしつつ攻撃魔術も使ってもらう。できるよな?」


「...とっ、当然!」


「よしっ。いい返事だ」


 これで、一人はやることが決まったな。

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